コラム入社する会社の決め手は「自らの成長が期待できる」。大切なのは入社後…。

入社する会社の決め手は「自らの成長が期待できる」。大切なのは入社後…。

「会社が」成長させてくれる面もあるが、「自ら」成長する世代が増えることを期待。

10月1日の内定式も終わり、卒業後の進路が確定している2022卒者にとっては、3月までの残された学生時代を大切に刻んでいることと思う。
2021年10月1日時点の就職内定率は92.4%、コロナ禍にあっても企業の新卒者採用の意欲は衰えていない。一方、新卒者は10月1日時点で87.5%が進路を確定させ、10.8%、約1割の新卒者が就職活動を10月1日時点で継続している。

10月1日時点で87.5%が進路を確定させるまでには、10月1日の内定式前までに複数社から内々定を得た新卒者は62.5%と、半数以上が複数社から内々定を得ているという調査結果もあり、10月1日をおおよそのリミットとして内々定を得た会社の中から1社に絞り込む「会社選び」が行われている。

「就職氷河期」とは異なり、新卒者労働市場は企業の旺盛な採用意欲から、学生側の「売り手市場」が続いている。結果として、6割を超える新卒就活生が複数社から内々定を得て、内々定を得た会社の中から「会社選び」が❝一般的❞に行われることになった。企業側も内定辞退への対策を採用活動の一部として制度化させている。

では、複数社から内定を得た新卒者は、最終的に入社する1社に絞り込む際、最も重視した「会社選び」のポイントはどこにあったのだろうか。
株式会社リクルートキャリアの就職みらい研究所の調査によれば、「就職先を確定する際に決め手となった項目(2020年卒学生上位10項目)」は、
「自らの成長が期待できる」56.1%であった。
ちなみに2019年卒も「自らの成長が期待できる」が最も多い決め手ではあったが、その割合は47.1%であり、2020年卒はより「自らの成長」を就職先に求めていることが分かる。

一方で、「就職先を確定する際に決め手となった項目」の中で、
「会社・団体の知名度がある」(20.5%)、
「会社・団体の規模が大きい」(20.2%)、といった「大企業志向」と称されたマインドは選択の基準から後退している。

自らの成長機会をより見出せた企業に入社を決めることは、自立的なキャリア形成の面からは好ましい傾向といえる。
しかしながら、「就職先を確定する際に決め手となった項目」の中で、「ゼミや研究等、学校で学んできたことが活かせる」が2番目位に低い17.8%となったことは注意が必要と思われる。

就職・採用の❝ゲンバ❞において、たびたび「大学で学んだことは会社ではほとんど役に立たない」といったセリフを耳にすることがある。
確かに、大学で学んだ学問「そのもの」が直接仕事に役立つという職業は限られているかもしれない。
しかしながら、「働き方改革」が進む日本において、1時間で生み出す付加価値を高めるためには、従業員全員が持てる知識と知恵を全て動員して、生産性を高める必要がある。
顧客から求められている商品・サービスの核は何で、商品・サービスの質を高めるためにどの点を改善すべきで、具体的に改善を進めるプロセスをどのように構築していくか、などの生産性向上活動は、大学における様々な学問の基礎となる論理的思考力が発揮される場面といえる。
さらに事業転換を促されている業界において、事業転換を図るための精緻な現状分析や新たな事業展開のためのロードマップ作製には、やはりあらゆる学問の基礎となるデータから事実を推論していく分析能力をフル活用すべき場面といえる。

会社を選ぶ決め手に「自らの成長が期待できる」が最も多くの新卒者が共感していることは、自立の観点からは将来に明るい希望が持てる傾向といえる。さらに言えば、会社は4月に入社した新卒者に対し手厚く教育を施すが、その教育に加えて、社会人となった新卒者が自ら学んでいくことも期待したい。
企業横断的なキャリア形成を望む際も、自ら業を起こすことを望む際も、必要となるのは、さまざまなファクターを俯瞰し、社会的に有用な商品・サービスに構築するための論理力だと思われる。
仕事の基礎を成す論理力は、どのような学部学科に所属し、どのような学問を学んだとしても身につけられる素養といえる。
その意味で、「ゼミや研究等、学校で学んできたことが活かせる」ことが就職先を確定する際の決め手としてもっと重視されても良いのではないかと思う。

最後に、新卒者の半数以上が就職先を選ぶ際の決め手を「自らの成長が期待できる」としたことを、社会人になった後も、この原点を心に留めていて欲しいと願う。
自立的なキャリア形成には、会社から施される教育だけでは不足する知識、経験が必ず出てくる。長い職業人生の中で、望む働き方、生き方を再構築すべき時が来たとして、実現できるかどうかは、どれだけ主体的に知識と経験を得てきたかに掛かっていると思う。
社会人のスタートに自ら成長したいと願ったことを大事にして、研鑽を積み、「やりたいこと」を成し遂げて欲しい。

2016年、政府が行った「社会生活基本調査」によれば、
職業に就いている社会人の6割は自ら学んでおらず、
職業に就いている社会人の学びの時間を平均すると6分、
これが現在の社会人の実情であった。

これからの社会人に出る若者には成長を期待したい。

【引用・参考文献】
・「就職プロセス調査(2022年卒)『2021年10月1日時点 内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「就職プロセス調査(2022年卒)『2021年9月1日時点 内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「就職プロセス調査(2020年卒)【確定版】『2020年3月度(卒業時点)内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「平成28年社会生活基本調査」総務省統計局(2016年)

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