一般社団法人企業活力研究所が行った調査によれば「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」と回答した34歳以下の従業員は59%に及ぶ。
新卒者就活生が自己分析を基に「やりたいこと」を定め、望む業界、職種、会社に向けて「志望動機」を構築し、数段階の選考プロセスを経て、社会人の第1歩を歩み出す就職先を確定させていく。
2015年3月卒求人倍率1.61倍から続く求職者側(新卒者側)の「売り手市場」は、新卒者の半数以上が1社から内定を得た後も就職活動を継続し、実に62.5%の新卒者が複数社から内定を獲得する状況を生み出した。1社から内定を得た後も就職活動を継続することは、より望む働き方、生き方を探求する志向の表れともいえよう。より自己の「やりたいこと」、望む働き方、生き方を探求する姿勢は、新卒就活生の必須の準備ツールのーつに組み込まれて久しい「自己分析」の副産物とも考えられる。大学生がこれまでの人生と向き合い、これからの生き方を模索する「自己分析」は、就職活動が始まる前までに、仮であっても一定の方向性、「答え」を出すことが求められる故に、移ろい易い、安定性を欠く「答え」でもある。加えて、企業が新卒就活生に開示する情報も、事業運営上不利になるような情報を出すことは難しく、限定された情報提供とならざるを得ず、新卒就活生にとっては「やりたいこと」が内定先企業で叶えられるかの確証が揺らぐこともありうる。
求職者側の「売り手市場」に加え、「自己分析」の副次的効果により、6割を超える新卒者が複数企業から内定を得る状況を作り出したと考えられる。
複数企業から内定を得て、熟慮の上4月から社会人をスタートさせる1社を選択しても尚、34歳以下の59%が「今の会社で定年まで勤め上げたいとは思わない」と答える。
自身の「やりたいこと」を探求することを就職活動のスタンダードと見なされ始めた頃から、転職を伴いながら企業横断的に「やりたいこと」を追求するキャリア志向が培われたと見ることもできる。
自身が望む働き方、生き方を探求することは、主体的なキャリア形成とも言えるため、推奨されるべき思考と思う。
さて、ここで新卒者の採用基準の中で、大学での成績を重視する企業が増えていることに注目したい。
大学での成績を改めて重視し始めた背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)、働き方改革、カーボンニュートラル社会実現など、経営そのものを転換する程の大きな変革を企業は求められており、その変革を成し遂げるためには、現在の事業と事業を取り巻く様々な要因とを俯瞰し、変革の設計図を描くことができる、基礎学力が高い人材を求める傾向が強まっていることが一因としてあげられる。
様々な事業環境変化に対応できる人材は、普遍的な基礎学力を備えた人材と目されることが多い。
新卒就活生を経て、社会人となった後の「やりたいこと」についても、「やりたいこと」を実現するためには、普遍的な基礎学力が求められるのではないだろうか。個人が思う「やりたいこと」は、既に誰かが行っていることではなく、新たに自らが創り出すことが多いのではないか。新たに仕事として生み出すためには、商品・サービスとして届けるまでの事業設計図を描くことが求められ、その設計図を描くには、やはり経験や勘だけではなく、論理的な思考が求められると思う。論理的思考を養うには、学びの時間が必要となる。
リクルートワークス研究所の調べによると、過去1年間に自分の意志で仕事にかかわる知識や技術の向上のための取組み( 本を読む、詳しい人に話を聞く、自分で勉強する、講義を受講するなど)、つまり自己学習を行ったかを尋ねたところ、社会人の33.1%が自己学習を行ったと回答した。この調査では、社会人の7割弱が過去1年間にわたって、自分の意志で自己学習を行っていないことが分かる。
世界的に見て日本が「働き過ぎ」とされていた時代から、働き方改革が進み、2000年の年間総実労働時間数1,859であったものが、2019年は1,733時間と年間労働時間が100時間以上削減されている。このことは、長時間労働だから自己学習ができない、という「できない理由」が全面的には受け入れ難くなっていることを示している。
リクルートワークス研究所の調査結果においても、労働時間が削減されても、自己学習を行う割合は有意に増加しなかったことが明らかにされている。
以前より短い労働時間であったとしても、その時間を学びの時間には使う傾向は確認されていない。
新卒就活生時代から自己と向き合い続け「やりたいこと」を探求し続ける姿勢は、社会人になっても変わらず見られる傾向として定着したと考えられる。
但し、「やりたいこと」を実現するためには、雇用された会社での職務経験のみでは不十分ではないだろうか。
働き方改革が進められる中で、総労働時間の削減のため、企業は従業員へのOJT及びOFF-JTの教育訓練時間を削減させている。このことは、以前よりも従業員の職業能力の伸長が自己学習に委ねる傾向が強まっていることを暗示している。
しかしながら、現実としては社会人の7割弱が自主的に学ぶことをしていない。
「やりたいこと」を探求する志向は主体的なキャリア形成にとって望ましい。大切なことは、それを実現する職業能力がいかに主体的に養うか、だと思う。
「やりたいこと」を探求する志向とともに、主体的に学ぶ志向の定着にも期待したい。
【引用・参考文献】
・「就職プロセス調査(2022年卒)『2021年10月1日時点 内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018)
・「毎月勤労統計調査 令和2年度分結果確報」厚生労働省(2020年)
・「どうすれば人は学ぶのか—『社会人の学び』を解析する—」リクルートワークス研究所(2018年)
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