一般社団法人日本経済団体連合会は2020年11月に、これまでの成長戦略に「。」=終止符を打ち、これから日本企業が向かうべき方向性を大きく示した「。新成長戦略」を公表した。
「。新成長戦略」では、わが国が持続可能な(サステナブル)な資本主義を実現させていくために、多様な主体が求める、多様な価値の包摂と協創をデジタルトランスフォーメーション(DX)の力で繋ぎ合わせていく、そのためのアクションを提示した。
「。新成長戦略」ではサステナブルな資本主義の実現のため、企業における「働き方」についても提言しており、日本を代表する経済団体が発する変革への方向性は、個別企業の人事戦略にも少なからず影響を及ぼす。
では、経団連が示したこれからの日本企業が向かうべき人事戦略、「働き方」について見てみよう。
P26
「2. 働き方の変革 (1) 時間・空間にとらわれない柔軟な働き方への転換
Society 5.0 時代の働き手は、デジタル技術を豊かな想像力・創造力で使いこなし、時間・空間にとらわれない、柔軟な働き方を通じて価値を創造する。働いた時間ではなく生み出す価値によって評価され、それに基づいて処遇される。企業はリモートワークと出勤、オンラインとオフラインを必要に応じて組み合わせ、最も生産性の高い働き方を追求する。 また働き手の健康確保を前提として、副業・兼業も奨励する。
その際、重要なのは一人ひとりの働き手のエンゲージメントを高め価値創造力を最大限に引き出す管理職の役割である。管理職には、従来の均質なチームが時間と空間を共有して働く場合とは異なり、多様性から価値を創造するマネジメントが求められる。」
ここでは、時間、空間にとらわれない働き方を奨励しつつ、一人ひとりが生み出した価値によって評価される人事制度を提唱している。
p27
「(2) 多様で複線的なキャリア形成に向けた人材流動化 柔軟な働き方の普及に伴い多様で複線的なキャリアが一般的になると、新卒一括採用や長期・終身雇用、年功序列制度は機能しなくなるため、企業は採用や雇用、処遇のあり方を見直すことが必要になる。新卒だけでなく中途採用も行い、バックグラウンドや経験、技能の多様性を確保する。同時に、企業の DXに伴い社内で新たに生まれる業務に人材を円滑に異動させるため、リスキリングも必要となる。DX に伴う産業構造の転換により、衰退し、失われる業種・職種がある一方、新たに生み出され、成長する業種・職種もある。重要なのは、失われる雇用から新たに生まれる雇用へ、円滑に労働力の移動が図られるよう支援する環境の整備である。円滑な労働力移動に不可欠な『学びなおし』には、国として集中的に投資することが求められる。」
経団連としても新卒一括採用や長期・終身雇用、年功序列制度の限界を示しつつ、従業員一人ひとりが新しいデジタル社会への適応していくため、学び直しに必要に言及している。主体的なキャリア形成のため、学ぶことが求められることは、時代の変化の要請によっても強められると言える。
p13
「~柔軟な働き方や多様で複線的なキャリアが実現する社会 DX の進展やコロナ禍を一因として、個人の働き方やキャリアに対する考えは大きく変わる。デジタル技術の発展により、業務のオンライン化、遠隔化、無人化が進み、定型業務から創造的業務への移行もあいまって、幅広い職種につ
いて時間・空間にとらわれない柔軟な働き方が可能になる。
それに伴い、時間を柔軟に活用した副業・兼業や、リモートワーク、二地域居住なども普及する。個人はそれによって充実した生活を送るとともに、自らの能力を遺憾なく発揮し、高い生産性を上げている。企業が『社会価値の創造』で評価されるように、個人も『社会価値の創造』によって評価され、対価を得る社会へと変化する。
個人のキャリアの形も変化する。一生の間に大企業、中小企業、スタートアップ、学術界、官庁、NPO 等、時に学びを繰り返しながらさまざまな立場を渡り歩く、あるいは同時にさまざまな立場に身を置く、多様で複線的なキャリア形成が普通になる。それによって主体間の人材交流によるカルチャーの共有、個々の組織における多様性の拡大が進み、多様な主体による価値協創が促進され、社会全体の生産性が向上している。このように柔軟な働き方や多様で複線的なキャリアがあたりまえになっている社会では、年齢、性別、国籍、障がいの有無の別なく、より多様な人々が活躍している。
柔軟な働き方により、個々人の状況に応じたワーク・ライフ・バランスが実現し、育児・介護中などこれまで就業を諦めざるを得なかった人々も就業機会を得て所得も増加することから、産みやすく育てやすい社会になっている。政策による後押しもあり、出生率が劇的に回復し、わが国経済社会の持続可能な成長を支えている。」
幅広い職種について時間・空間にとらわれない柔軟な働き方が可能となり、
時間を柔軟に活用し副業・兼業やリモートワークが普及する、
個人も「社会価値の創造」によって評価される、対価を得る、
個人のキャリア形成は、多様で複線的となり、
個々人の状況に応じたワーク・ライフ・バランスが実現し、
わが国の持続的成長が実現する。
経団連が描くこのような理想の社会が実現し、みなが主体的に生きる社会が一日でも早く到来することを切に願う。
このような理想的な社会においては、新卒就活生のオンライン就職相談に寄せられる相談も、ポジティブな相談が多くなるだろう。
そして、現在の新卒者のみなには、このような理想的な社会を実現しようと真剣に考えている経営者が多くいることを、忘れないで欲しい。
希望の光は少なくないことを。
【引用・参考文献】
・「。新成長戦略」一般社団法人日本経済団体連合会(2020)
―新卒就活生のためのオンライン就職相談 メッセンジャー・チャットアプリ