コラム日本経済の「6重苦」全体として改善されるも、労働市場は未だ硬直的

日本経済の「6重苦」全体として改善されるも、労働市場は未だ硬直的

内閣府「令和3年度年次経済財政報告」、産業間の労働移動は依然不活発。

9月24日、内閣府は「令和3年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)」を公表した。報告書の副題は「―レジリエントな日本経済へ:強さと柔軟性を持つ経済社会に向けた変革の加速―」であった。

報告書では、2011年の東日本大震災後から指摘されていた「日本経済の6重苦」について総括している。2011年7月に日本経済団体連合会が指摘した「6重苦」とは、①円高、②高い法人実効税率、③自由貿易協定(FTA/EPA)の対応の遅れ、④国際的に見て硬直的な労働規制、⑤地球温暖化ガスの25%削減、⑥電力問題(電力不足、高い電力コスト)であった。経済界としては、指摘した日本経済にとっての6つの「苦」を解消することで、諸外国との競争環境上のイコール・フィッティングを整えることを主唱した。

「日本経済の6重苦」の指摘から10年、内閣府では以下のように個別事項を総括した。
①円高については「解消」された。
名目実効為替レートが2011年12末110.36円から2021年6月末85.03円となった。

②高い法人実効税率は「解消」された。
2012年度法人実効税率37.00%から、2018年度以降29.74%となった。

③自由貿易協定(FTA/EPA)の対応の遅れについては「解消」された。
2011年12月末ASEANおよびインド他3か国と経済連携協定発効、輸出入の2割弱から、2021年1月末TPP11,日EU・EUA他24か国と発効・署名、輸出入の約5割となった。

④労働市場の硬直性は「課題が残る」。
2011年正規雇用者数3,355万人、非正規雇用者数1,812万人から、2020年正規雇用者数3,529万人、非正規雇用者数2,165万人と正規雇用者および非正規雇用者の数は増加している。
一方で、課題は平時における産業間の労働移動を通じた産業や業種構造の転換であり、こうした前向きな移動を阻害する労働市場の硬直性は残る、と指摘している。

⑤環境規制については、グローバルに合意された「2050年カーボンニュートラル」社会の実現に向けて更なるイノベーションを促した。

⑥電力不足・コスト高については「未解決」。
2010年度産業向け電力13.7円/kWhから、2019年度17.0円/kWhと24%増となった。

「6重苦」の中で、新卒就活生にとって④労働市場の硬直性は、これから社会に出る上で関係が強いテーマと言える。
報告書においては、経済界から「苦」として指摘があった「リーマンショックによる景気後退期には、過去の判例や実績から労働慣例上踏襲されている、いわゆる『整理解雇の4要件(①人員整理の必要性 、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続の妥当性 )』が厳しすぎるとの声が産業界から多くあがっていた。もっとも、雇用契約は当事者対等主義が維持されないおそれがあることから、一定の雇用者保護が必要であることは言うまでもないが、それが静態的な雇用保護にとどまっており、雇用者の将来を含めた動態的な雇用保護に至っていないところに慣例や判例主義の課題がある。・・・課題は、平時における産業間の労働移動を通じた産業や業種構造の転換であり、こうした前向きな移動を阻害する労働市場の硬直性は残っている。」と労働市場を政策的に硬直させている理由と、一方で労働市場が硬直することの課題について言及している。

課題は、働く人の産業間の移動を通じた産業や業種構造の転換、すなわち「前向きな移動」を阻害する労働市場の硬直性が残っていること。
新卒者の「やりたいこと」「やりたい仕事」は、就職活動時に定めたことが当然全てではない。就職活動中に自己分析を通じて一旦は定めた「やりたいこと」「やりたい仕事」であっても、実際に社会出て、経験を積むことで変化することが自然なことと言えよう。
様々な知識や経験を得て、新たに定めた「やりたいこと」「やりたい仕事」に就こうとした際に、働く人個人の努力ではなく、日本の労働市場、労働慣行が原因でその実現が阻まれてしまうことは、若者の活力を奪うことに繋がってしまうのではないか。

新卒就活時だけではなく、生涯のキャリアを通じて「やりたいこと」「やりたい仕事」を模索し、その実現が図れる社会であるという安心感が、若者の挑戦する気持ちを醸成する基盤となるのではないか。

【引用・参考文献】
・「令和3年度年次経済財政報告-レジリエントな日本経済へ:強さと柔軟性を持つ経済社会に向けた変革の加速-」内閣府(2021)
・「日本経済再生のための緊急アピール」日本経済団体連合会(2011)

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