コラム能力開発の主体は、会社か、個人か

能力開発の主体は、会社か、個人か

自立的に働き、生きるための源泉の獲得

大学を卒業し、新卒者として約8割の学生が企業や組織に入社(2020年、文部科学省)し、キャリアをスタートさせている。
日本の特徴的な労働慣行である新卒者一括採用、年功序列、終身雇用のうち、新卒者一括採用についてはこれまでも何度も見直しが提起されてきているものの、一定の合理性が存在するためか根強く慣行として存続し続けている。
一方、年功序列および終身雇用については、企業側の競争環境の変化もさることながら、働く個人側の労働観、人生観の変容に伴い、この労働慣行を維持することが難しくなっている。
企業側としては、個別企業の永続的存立のため、長期勤続を前提とするコア従業員をいかに育成、確保していくかが人事労務管理上の大きな課題とされている。

では、働く個人について、(結果としての)終身雇用を前提とせずに、自立的・主体的に働く場所を選んで行くために不可欠な個人に帰属する能力についてみてみよう。
まずは根強く残る労働慣行である新卒者一括採用により、大学卒業後8割の学生が何らかの職業に就いていることから、企業における能力開発の実態をみてみる。
厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」によると、わが国の職場内訓練(On the Job Traning)の実施率はOECD諸国に比べて、低いことが分かる。OECD諸国における男性に従業員に対する職場内訓練実施率は55.1%であるのに対し、わが国の実施率は50.7%と各国平均を下回っている。各国平均を下回る状況は、女性従業員対する職場内訓練実施率においても同様で、各国平均57.0%に対して、わが国は45.5%と大きく下回っている。

さらに、GDPに占める企業の能力開発費の割合をみてみると、わが国が突出して少ない割合である。2010年~2014年、各国のGDPに占める能力開発費の割合は、アメリカ2.08%、フランス1.78%、ドイツ1.20%、イタリア1.09%、イギリス1.06%、そして日本が0.10%となっており、各国に比べ能力開発に支出する額が極端に少ないことが分かる。

個別民間企業が支出した従業員1人に対する1カ月当たりの教育訓練費をみてみると、2016年は1,112年。ちなみに、1991年が1人当たり教育訓練費の支出額のピークであり1,670円、ここからわが国の民間企業においては教育訓練費は漸減し続けている。

終身雇用を前提とせず、自立的・主体的に働く場所、働く組織を個人が選ぶための源泉となる職業能力の形成については、マクロの統計だけをみたところ、企業側から提供される教育の機会だけでは不十分といえよう。
自立的・主体的に働き方を選ぶためにも、自ら職業能力の形成を図る必要があろう。

【引用・参考文献】
・「令和2年度学校基本調査結果の概要」文部科学省(2020)
・「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」厚生労働省(2018)

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