1945年から2015年の間に「心にゆとりある社会」が失われた
NHKは2014年11月、太平洋戦争が1945年に終戦してから70年を迎えた2015年にあわせ、日本国民の「戦後70年に関する意識調査」を行った。
調査では、日本社会が1945年を境として「失ったもの」あるいは「失われつつあるもの」を問いている。
この世論調査においては、1945年の終戦後から70年の時を経て日本社会が「失った」あるいは「失われつつある」と捉えられて事柄は、「心にゆとりがある社会」が最も多く48%、次いで「地域で互いに助け合う社会」38%、「家族の絆が強い社会」35%となった。
「地域で互い助け合う社会」が失われつつあることは、地域社会における個人の役割や個人の生きがいなどを明らかにしてくれる、という地域社会の重要な機能が希薄化し続けていることも意味している。
さらに同調査では、1945年から2014年に至るまでに、日本人の「意識」の中で「強まった」意識と「弱まった」意識についても明らかにしている。
最も日本人の意識の中で「弱まった」意識と捉えられているのは、
「自分を犠牲にしても、人のために尽くすという考え」について71.7%が「弱まった」と考えている(「どちらかと言えば弱まった」44.5%、「弱まった」27.2%)。
このことは「地域で互いに助け合う社会」について「失った」あるいは「失われつつある」と捉えられていることと符合している。
次いで「弱まった」と捉えられているのは、
「年長者を敬う心」で67.1%が日本人の意識の中から「弱まっている」と感じており(「どちらかと言えば弱まった」48.0%、「弱まった」19.1%)、「組織への忠誠心」については63.4%が「弱まった」と回答している(「どちらかと言えば弱まった」49.3%、「弱まった」14.1%)。
ちなみに日本人の意識で「強まった」と捉えられているのは、「個人主義」68.4%であった(「どちらかと言えば強まった」24.1%、「強まった」44.3%)。
ここで話題を変えて、経営組織における伝統的な「コミュニケーション」=組織における「伝達」の考え方について振り返ってみたい。
経営における組織論の古典的名著と名高いチェスター・I・バーナードの「経営者の役割—その職能と組織—」においては、「権限受容説」という組織における「伝達」の考え方について、新しい説が提唱されている。
バーナードの「権限受容説」によれば、組織におけるコミュニケーション=「伝達」の源泉と見做されていた「権限」は、上位者にあるのではなく下位者に「受容」されてはじめて成り立つものと考えられる。
「権限とは、組織の貢献者、すなわち構成員によって、その人の貢献する行為を支配するものとして受容されるところの公式組織における伝達(communication)・命令(order)の性格をもつのである。すなわち、組織に関するかぎり、その人がなすこと、あるいはなしてはいけないことを支配し(governing)決定するものとして受容されるものである。
もし、命令的な伝達がその受令者に受け入れられるならば、その人に対する伝達の権限が確認あるいは確定され、行為の基準として認められる。
逆に、この伝達に従わないときは、かれに対する伝達の権限が否定されたことになる。
それゆえ、この定義では、一つの命令が権限をもつかどうかの決定は受令者の側にあり、権限者すなわち発令者の側にあるのではない」とされている。
バーナードが「権限受容説」を唱える以前は、組織における上位者から下位者に対する「命令」は、公式組織に定義された「権限」に基づくものであるから、何の疑いもなく部下は「従うもの」とされていた。
しかしながら、バーナードは、上位者から下位者への「命令」=「権限」は、下位者がその「命令」=「権限」に従おうと思わない限り、有効な「命令」=「権限」とはなり得ない、と主張した。
さらに、バーナードは、下位者が上位者からの「命令」に従うかどうかは、次の4つの条件が同時に満たされた時にはじめて「命令」を権威あるものとして受容すると解説する。
(1)かれは伝達を理解でき、また理解する。
(2)かれは、伝達をうけとり判断する時点において、それが組織目的と矛盾しないと信ずる。
(3)伝達をうけとりそれを判断する時点において、かれはその伝達が全体としてかれの個人的利害と両立すると信ずる。
(4)かれは精神的にも肉体的にもその伝達に従いうる。
ここで重要な示唆は、上位者からの「命令」を従うかどうかの大切な条件として、組織目的と矛盾しないことと、個人的利害とも両立できると信じられることである。
ジム・コリンズの『ビジョナリーカンパニー』においては、ビジョナリーカンパニーの重要な要素は「基本理念、つまり、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識」であり、さらに「理念」を「守り切る意識」が会社全体に浸透しているかが、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきたビジョナリーカンパニーの特徴であるとされていることからも、組織目的=企業理念が矛盾なくトップからロワーまでの行動基準として守り抜かれていることの重要性がここからも確認できる。
日本社会が「失ったもの」あるいは「失われつつあるもの」、また日本人の意識から「弱まったもの」。
なぜ失われ、なぜ弱まったのかを、「受容」の観点から見てみると、また違った考察ができるのではないだろうか。
【引用・参考文献】
・「世論調査でみる日本人の『戦後』~『戦後70年に関する意識調査』の結果から~」荒牧央・小林利行(2015)
・「集計表 戦後70年に関する意識調査」東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブセンター(2014)
・「ビジョナリーカンパニー」ジム・コリンズ(1995)
・「経営者の役割—その職能と組織—」チェスター・I・バーナード(1956)
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