キャリア形成を自立的に考える場合、一つは所属している組織内において、組織が期待するキャリア形成と従業員個人が希望するキャリア形成とを統合していく方向と、もう一つは組織を横断しながらキャリア形成を行う方向が考えられる。
ここでは組織内でのキャリア形成よりも、より主体的、自立的に組織を横断しながらキャリア形成を行う方向を検討してみたい。
主体的な働き方、生き方を実現させるためには、市場経済が生活の前提となっている社会において、まずは個人が適合していく必要がある。
市場経済社会において、雇用を提供する組織(≒株式会社)間を移動するための能力について、厚生労働省は「ポータブルスキル」という概念を提唱している。
「ポータブルスキル」は、2014年厚生労働省が一般社団法人人材サービス産業協議会に「キャリアチェンジプロジェクト」事業を委託し、このプロジェクトにおいてはじめて示された概念とされる。以下、「ポータブルスキル」について、一般社団法人人材サービス産業協議会が行った「キャリアチェンジプロジェクト」から参照する。
「ポータブルスキル」とは、「業種や職種が変わっても通用する『持ち運び可能な能力』」と定義されている。
業種や職種が変わっても通用する「持ち運び可能な能力」=「ポータブルスキル」を構成する要素は3つ。
①専門知識・専門技術
②仕事のし方
仕事のし方において重要な行動としては、
1)現状の把握
取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析のし方
2)課題の設定
事業、商品、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定のし方
3)計画の立案
担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方
4)課題の遂行
スケジュール管理や各種調整、業務を進める上での障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方
5)状況への対応
予期せぬ状況への対応や責任の取り方
③人との関わり方
人との関わり方において重要なことは、
1)社外対応
顧客・社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整、合意形成のし方
2)社内対応
経営層・上司・関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得のし方
3)部下マネジメント
メンバーの動機づけや育成、持ち味を活かした業務の割り当てのし方
①専門知識・技術、②仕事のし方、③人との関わり方、の3要素が「ポータブルスキル」の主要な構成要素にあげられている。
確かにこの3要素は「業種や職種が変わっても通用する『持ち運び可能な能力』」と言えるが、実際の組織横断的キャリア形成(=転職)の際に、重要となる要素を考えてみたい。
主体的に組織横断的なキャリア形成を望む個人から相談を受け、現実的に「次の職場から受け入れられる」=採用される人材の多くは、専門技術・知識を有し、所属していた組織の課題を明らかにし、実際に自身が主体となり実行した経験も持つ者、である。
組織の横断を希望する個人の中で、現実として希望する次の組織から受け入れられ難い特徴として、「人との関わり方」に自身のストロングポイントを見出している者があげられる。
ゲンバの話しとしては、いくら個人が上司と上手く接し、部下の育成もしっかりしてきた、とアピールしても、それ自体が積極的に評価される場面は多くはないと思われる。
日本の労働慣行として根強い年功序列の風土において、上司、同僚、部下と“上手く”接すことは、積極的な強みとはなり得ない現実がある。
このポータブルスキル(業種や職種が変わっても通用する『持ち運び可能な能力』)の3要素から、主体的なキャリア形成の視点からの示唆としては、まずは専門知識・技術を磨き、習得した専門知識・技術を活用し、課題を明らかにし、自身が主体となり課題解決を実行する、ことで、企業横断的な「持ち運び可能な能力」が備わっていると言えるようになるのではないか。
専門性を磨き、課題に対し自ら動く。
正しく「主体的」な活動が、主体的な生き方に繋がるのではないだろうか。
【引用・参考文献】
・「『キャリアチェンジプロジェクト』について」一般社団法人人材サービス産業協議会
―新卒就活生のためのオンライン就職相談 メッセンジャー・チャットアプリ