コラム自己分析で辿り着いた「やりたいこと」は実際どのように扱われるのか

自己分析で辿り着いた「やりたいこと」は実際どのように扱われるのか

初任配属先の決定時期と異動についての調査から

大学新卒者の採用・就職活動の開始時期は、就職協定の改定の歴史と共に変更され続けてきた。現在の3月1日広報活動開始、6月1日採用選考活動開始、10月1日以降正式な内定とする、採用・就職活動スケジュールは、2017年卒からである。約10年前の2012卒の採用・就職活動のスケジュールは、現行よりも5カ月早く(大学3年の)10月1日広報活動が開始され、採用選考活動開始も4月1日からとされていた。
採用・就職活動の時期が大学3年次の10月1日に開始されることにより、就職活動の「早期化と長期化」の問題が指摘され、2013年卒からは12月1日に広報活動開始が「後ろ倒し」された。2016年卒からは現在と同様の3月1日広報活動開始にさらに「後ろ倒し」されている。
近年では最も早く採用・就職活動が開始されていた2012卒までであれば、10月1日に広報活動がスタートしていたこともあり、9月中旬といえば、学生も企業の採用担当者も間もなく開始される採用・就職活動に向けて準備を整えていた時期といえる。

後に「就職氷河期」と称されるようなった1990年後半から2000年前半までの厳しい新卒者労働市場の真っただ中においても、新卒者にとって初職を探す就職活動において「自己分析」は浸透していた。
「自己分析」の中でも「やりたいこと」探しは、現在の新卒者にとっても重要な就活プロセスとして定着している。そして、この就活プロセスが新卒就活生を困惑させる大きな要因ともなっている。

では、10年前であれば10月を前にして、そろそろ新卒就活生が取り組み始める「自己分析」と、分析項目の一つである「やりたいこと」は、実際に就職後にどのような意味を持ってくるのだろうか。

株式会社ディスコが2021年3月に発表した「入社1年目社員のキャリア満足度調査」によれば、新卒者の配属先の決定時期は61.1%が「入社後」となっており、一方、「内定承諾までに」配属先が決まっている企業が10.4%、「内定承諾後、入社前まで」が26.5%であり、新卒者の半数以上が配属先は入社後に決定していることが分かる。
このことは、日本企業における新卒者採用の位置づけが未だ長期勤続、ジョブローテーションを前提とした総合職としてキャリア形成させることに基づいていると言えよう。採用・就職活動のスケジュール通り10月1日の内定時には、入社後の職務と直結する配属先は確約せず、4月1日の入社後に、会社の人事戦略に基づいて、配属先を「言い渡される」ことが多くの企業で一般的に行われている慣例といえる。

実際の新卒者の配属先決定時期は約6割で「入社後」ではあるが、配属される主体である新卒者に「望ましい配属先決定時期」を尋ねたところ、「内定承諾前」26.5%、「内定承諾後、入社前までに」25.5%と半数を超える新卒者が、入社前までに、入社後の職務・仕事に直結する配属先を決定していることが望ましいと考えている。
このことは、「自己分析」に伴う、「やりたいこと」「やりたい仕事」を明確化させながら就職活動を進める現在の就活プロセスと無関係ではないだろう。
新卒者の就職活動において一般化されて久しい「自己分析」と、採用する側の人事戦略の間には、選考プロセスにおいても入社後に「言い渡される」職務においても、ギャップを生じさせる罠が潜んでいるのではないか。
新卒者が就活時に深く考えた「やりたいこと」と、入社後の配属先=職務とは、必ずしも直結しない企業が存在するのではないか。

さらにHR総研の調査によれば、従業員のキャリア形成に大きな影響を与える異動(ジョブローテーション)について、「本人の状況・意向は確認せず、(異動)命令には原則として拒否権は無い」企業が16%、「本人の状況・意向は確認するが、原則として(異動の)拒否権は無い」企業が49%となっている。
6割を超える企業で、職務に直結する異動命令は、会社の人事戦略を反映したものとなっている。

新卒者として就職活動を行う際に、一般化された「自己分析」手法を用いて、自身の長期的なキャリアプランを深く検討した上で、志望する企業を絞り込み、4月に入社する。
調査結果から見る日本企業の実際は、変化し続けてはいるものの、現在も多くの企業で会社主導による従業員のキャリア形成が行われているように映る。
自ら望むキャリアプランを描いた新卒者が、実際にその望む「やりたいこと」を叶えるためには、新卒者自身も、そして会社も何らかの変革が求められるのかもしれない。

【引用・参考文献】
・「入社1年目社員のキャリア満足度調査」株式会社ディスコ(2021)
・「異動、転勤に関する実態調査」ProFuture株式会社/HR総研(2021)
・「就職・採用活動に関する要請」内閣官房(2021)

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