「新卒者一括採用」「年功序列」「終身雇用」が日本の雇用慣行として定着したとされるのが1950年代以降。およそ半世紀の時を経て「年功序列」、「終身雇用」は「維持し難い」や「既に崩壊している」と言われるようになった。一方で、「新卒者一括採用」に関しては、政府と教育界と産業界の間で「申し合わせ」が取り交わされるなど一定のルールの下で、労働慣行として現在も維持されている。
「既に崩壊している」との指摘がある「年功序列」「終身雇用」は、企業側が労働力の維持、活用のために採用していた人事制度である。「日本的経営」の中核を成していた象徴的な2つの人事制度は、1950年代から崩壊が囁かれるようになるまでは、企業の提案する人事制であったとしても、働く人にとっても合理的な側面があったからこそ数十年に亘り一般的な人事制度であり得た。
では、現在の新卒者にとって、長期勤続を前提とする人事制度はどのように受け止められているのだろうか。
新卒者の「退職」の動向から、現在の若者が一つの企業に長期的に勤続することに対する意識を見てみたい。
独立行政法人労働政策研究・研修機構では、2019年3月に「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ」を公表した。
同調査によれば、大学・大学院卒の「3年以内離職者」率は21.4%であった。ちなみに厚生労働省調査では、大卒者の「3年以内離職者」率は31.8%となっている。
厚生労働省調査では新卒者の3割、労働政策研究・研修機構調査では2割が「3年以内」に早期離職している。2~3割の新卒者が「3年以内」に離職する傾向は2000年頃から言われ始めており、ここ20年余り早期離職者の割合は変化がないように思われる。
大卒新卒者の「初めての正社員勤務先」を離職した理由を見てみると、男性では「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」が最も多い理由で29.3%、次いで「会社の将来性がないため」が25.7%、そして「肉体的・精神的に健康を損ねたため」が25.4%となっている。
女性では「肉体的・精神的に健康を損ねたため」が最も多く36.1%、次いで「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」32.5%、「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」が28.2%となった。
男女とも大卒新卒者の退職理由の上位には、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」といった労働条件が入っているものの、「会社の将来性がないため」や「自分がやりたい仕事とは異なる内容だった」といった主体的に退職(転職)を決めたことを窺い知れる理由も含まれている。
大卒新卒者の男性では上位3位には入らなかったものの「初めての正社員勤務」を離職した理由の中には「キャリアアップするため」23.9%、「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」23.2%、といったように主体的に働く場所を含めたキャリア選択を行っている者も少なくない。
大卒新卒者の女性においても、「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」が28.2%で3番目に多い退職理由であり、「会社の将来性がないため」も22.0%、「キャリアアップするため」が17.7%と、仕事と会社を自ら選ぶため退職をした者は男性と同じく少なくない。
企業側が長期勤続を提案したとしても、その社会でキャリアアップが見込めないと判断されたり、自分が「やりたい仕事」とは異なっていると認識されたり、会社に将来性を見出せなかったりすれば、自らの意思で働く場所を含めたキャリア選択を行う若者は少なくないと言えよう。
自らのキャリア形成を全て会社に委ねるのではなく、自らの意思で主体的に判断する若者が増えることで、企業としても「個人のキャリアアップと将来の事業展開のベクトル合わせ」、「働く人のやりたいこと・やりたい仕事と事業戦略との統合」、「会社の将来性」について真剣に向き合わざるを得なくなり、結果的に会社の成長発展にとっても、働く人の充実したキャリア形成にとってもプラスになる最適解が見出せるようになるのではないだろうか。
新卒者は就職活動を契機として「自己分析」を行い、自らの将来と必死で向き合う。多くの新卒者は、粗削りながらも熟考の末「やりたいこと」「やりたい仕事」を定めて、4月に社会に出る。3年以内の早期離職に至る理由がネガティブなものだけではなく、主体的なキャリア形成を見据えたものも少なくないことは、現在の若者の働くことの意識変化と言えよう。
【引用・参考文献】
・「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ」独立行政法人労働政策研究・研修機構(2019)
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