コラム「大切な人のために何かしてあげたい」、仕事の本質が見え難い世界。

「大切な人のために何かしてあげたい」、仕事の本質が見え難い世界。

大切な人のために自ら進んで何かする、人としての本源が「職業」に変わることで見え難くなる。

内閣府が1957年から行っている「国民生活に関する世論調査」では、「働くことの目的」について尋ねている。同調査において「働くことの目的」ついて問い始めたのは1997年の第43回調査から。

1997年調査において、日本国民の「働くことの目的」は、
「お金を得るために働く」34.0%、
「生きがいをみつけるために働く」33.1%、
「社会の一員として務めを果たすために働く」16.9%、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」12.7%、
の順であり、1997年当時の「働くことの目的」は「お金を得るために働く」と「生きがいをみつけるために働く」が拮抗していた。
「働くこと」に3割以上の国民が「生きがい」を見出そうとしていた。

4年後の2001年調査では、「働くことの目的」の順位は変わらないものの、
「お金を得るために働く」49.5%と1997年調査から15.5ポイントも増え、
「生きがいをみつけるために働く」24.4%(同8.7ポイント減少)、
「社会の一員として務めを果たすために働く」10.0%(同6.9ポイント減少)、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」9.0%(同3.7ポイント減少)、
と「働くこと」から「生きがい」、「社会の一員としての務め」、「採用や能力の発揮」といった「目的」が薄らいだ。

直近の調査となる2019年調査を見てみると、「働くことの目的」は、
「お金を得るために働く」56.7%、
「生きがいをみつけるために働く」17.0%、
「社会の一員として務めを果たすために働く」14.5%、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」7.9%、
と5割以上の国民が「働くことの目的」を「お金を得るため」と捉えている。

さらに、18歳から29歳の若年層の「働くことの目的」を見てみると、
「お金を得るために働く」65.1%、
「生きがいをみつけるために働く」10.6%、
「社会の一員として務めを果たすために働く」10.8%、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」13.0%、
と若年層ほど「働くことの目的」を「お金を得るため」と捉えている傾向が強いことが分かる。

確かに、職業は生活をするためのお金を得るもの、労働の対価として賃金を得るものである。
では、なぜ今から24年前の調査においては「お金を得るために働く」と「生きがいをみつけるために働く」が「働く目的」として拮抗していたのだろうか。
1997年当時は、なぜ働くことに「生きがい」を見出せると捉えていた人が多かったのだろうか。

「生きがい」とは、人それぞれ異なるもの。
特に、職業に関連させての「生きがい」の見出し方はより複雑で、多様なもの。
職業において、一生懸命に仕事に打ち込むことや、時間を忘れて働くことが、全ての人にとっての「生きがい」になるだろうか。

全て人に妥当しなくとも、「働くこと」が「生きがい」になる共通点としては、「誰かの役に立つこと」ではないだろうか。
日本が戦後の復興期から、高度経済成長期、安定成長期を経て、低成長期に入ってから約30年。
戦後の復興を国民全員が願い「日本のため」を思い働いた時代。
日本全体がより豊かになることを願い働いた時代。
自分が所属する「疑似家族」と見做されていた「会社」の発展のためを思い働いた時代。
全ての人に妥当しないまでも、これまでの時代は「誰かのため」に働くことが、今よりイメージし易かった時代と言えるのではないか。

かつて「疑似家族」と見做されていた「会社」の観念は、希薄化し続けている。
「疑似家族」であった会社においては、働くことは「家族のため」と見ることも出来たのではないだろうか。
その観念も今では、会社は生涯勤め上げるのではなく、長いキャリアの一時期を過ごす「働く場所」に移り変わっている。

さらに「分業」がより高度化されることで、自分の行った仕事が誰の役に立つのかますます知覚し難くなっている。

「働くこと」が「生きがいに」になるのは、「誰かの役に立っている」と思えることから生まれるのではないかと考える。
今は「分業」の高度化と、かつて会社が有していた「疑似家族」の観念の希薄化により、働くことによって「誰かの役に立った」という思いを得難い時代と言える。

自身が働いたことで、「誰かの役に立った」という感覚を取り戻すことが必要だと思う。
職業や働くことの原点は、自分の大切な人のために何かしてあげたい、と思う人間としての本源に繋がっている。

大切な家族を駅まで車で安全に送ってあげたいという気持ちは自然に湧き出てくるものだが、
職業としての運転手になった瞬間に「お金を得るため」が前面に表れてしまい、
大切な誰かのために何かしてあげたいと思うことが、職業の前提になっていることを隠してしまう。

自身の仕事が「誰かの役に立っている」ことを知覚し難い時代、それでも会社における仕事が「誰かのため」と思わせてくれる職場に、働く人々が出会えることを願っている。

【引用・参考文献】
・「国民生活に関する世論調査(令和元年6月)」内閣府政府広報室(2019)
・「国民生活に関する世論調査(平成9年5月)」総理府広報室(1997)

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