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1945年から2015年までに日本社会が「失ったもの」と「弱まったもの」。その要因は…。
1945年から2015年の間に「心にゆとりある社会」が失われた NHKは2014年11月、太平洋戦争が1945年に終戦してから70年を迎えた2015年にあわせ、日本国民の「戦後70年に関する意識調査」を行った。調査では、日本社会が1945年を境として「失ったもの」あるいは「失われつつあるもの」を問いている。この世論調査においては、1945年の終戦後から70年の時を経て日本社会が「失った」あるいは「失われつつある」と捉えられて事柄は、「心にゆとりがある社会」が最も多く48%、次いで「地域で互いに助け合う社会」38%、「家族の絆が強い社会」35%となった。「地域で互い助け合う社会」が失われつつあることは、地域社会における個人の役割や個人の生きがいなどを明らかにしてくれる、という地域社会の重要な機能が希薄化し続けていることも意味している。 さらに同調査では、1945年から2014年に至るまでに、日本人の「意識」の中で「強まった」意識と「弱まった」意識についても明らかにしている。最も日本人の意識の中で「弱まった」意識と捉えられているのは、「自分を犠牲にしても、人のために尽くすという考え」について71.7%が「弱まった」と考えている(「どちらかと言えば弱まった」44.5%、「弱まった」27.2%)。このことは「地域で互いに助け合う社会」について「失った」あるいは「失われつつある」と捉えられていることと符合している。次いで「弱まった」と捉えられているのは、「年長者を敬う心」で67.1%が日本人の意識の中から「弱まっている」と感じており(「どちらかと言えば弱まった」48.0%、「弱まった」19.1%)、「組織への忠誠心」については63.4%が「弱まった」と回答している(「どちらかと言えば弱まった」49.3%、「弱まった」14.1%)。 ちなみに日本人の意識で「強まった」と捉えられているのは、「個人主義」68.4%であった(「どちらかと言えば強まった」24.1%、「強まった」44.3%)。 ここで話題を変えて、経営組織における伝統的な「コミュニケーション」=組織における「伝達」の考え方について振り返ってみたい。経営における組織論の古典的名著と名高いチェスター・I・バーナードの「経営者の役割—その職能と組織—」においては、「権限受容説」という組織における「伝達」の考え方について、新しい説が提唱されている。バーナードの「権限受容説」によれば、組織におけるコミュニケーション=「伝達」の源泉と見做されていた「権限」は、上位者にあるのではなく下位者に「受容」されてはじめて成り立つものと考えられる。「権限とは、組織の貢献者、すなわち構成員によって、その人の貢献する行為を支配するものとして受容されるところの公式組織における伝達(communication)・命令(order)の性格をもつのである。すなわち、組織に関するかぎり、その人がなすこと、あるいはなしてはいけないことを支配し(governing)決定するものとして受容されるものである。もし、命令的な伝達がその受令者に受け入れられるならば、その人に対する伝達の権限が確認あるいは確定され、行為の基準として認められる。逆に、この伝達に従わないときは、かれに対する伝達の権限が否定されたことになる。それゆえ、この定義では、一つの命令が権限をもつかどうかの決定は受令者の側にあり、権限者すなわち発令者の側にあるのではない」とされている。 バーナードが「権限受容説」を唱える以前は、組織における上位者から下位者に対する「命令」は、公式組織に定義された「権限」に基づくものであるから、何の疑いもなく部下は「従うもの」とされていた。しかしながら、バーナードは、上位者から下位者への「命令」=「権限」は、下位者がその「命令」=「権限」に従おうと思わない限り、有効な「命令」=「権限」とはなり得ない、と主張した。 さらに、バーナードは、下位者が上位者からの「命令」に従うかどうかは、次の4つの条件が同時に満たされた時にはじめて「命令」を権威あるものとして受容すると解説する。(1)かれは伝達を理解でき、また理解する。(2)かれは、伝達をうけとり判断する時点において、それが組織目的と矛盾しないと信ずる。(3)伝達をうけとりそれを判断する時点において、かれはその伝達が全体としてかれの個人的利害と両立すると信ずる。(4)かれは精神的にも肉体的にもその伝達に従いうる。ここで重要な示唆は、上位者からの「命令」を従うかどうかの大切な条件として、組織目的と矛盾しないことと、個人的利害とも両立できると信じられることである。 ジム・コリンズの『ビジョナリーカンパニー』においては、ビジョナリーカンパニーの重要な要素は「基本理念、つまり、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識」であり、さらに「理念」を「守り切る意識」が会社全体に浸透しているかが、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきたビジョナリーカンパニーの特徴であるとされていることからも、組織目的=企業理念が矛盾なくトップからロワーまでの行動基準として守り抜かれていることの重要性がここからも確認できる。 日本社会が「失ったもの」あるいは「失われつつあるもの」、また日本人の意識から「弱まったもの」。なぜ失われ、なぜ弱まったのかを、「受容」の観点から見てみると、また違った考察ができるのではないだろうか。 【引用・参考文献】・「世論調査でみる日本人の『戦後』~『戦後70年に関する意識調査』の結果から~」荒牧央・小林利行(2015)・「集計表 戦後70年に関する意識調査」東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブセンター(2014)・「ビジョナリーカンパニー」ジム・コリンズ(1995)・「経営者の役割—その職能と組織—」チェスター・I・バーナード(1956) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
「何のため、誰のために働くのか」が明確な会社の特徴。
近年、新卒者として入社した会社を数カ月から数年といった早期に退職する若年者が増加傾向を示している。
学校を卒業した新卒者を4月に一括で採用し、採用した新卒者を全員一律に教育を施し、長期的に雇用する日本的雇用慣行が崩れたと言われて久しい。
日本的雇用慣行においては、学校を卒業して直ぐに会社に入社し、長期雇用を経て、定年を迎え、会社を去るまでの40年余りを同じメンバーで過ごすため、疑似家族と見做されるまでの凝縮した人間関係が社内で形成されていた。
会社は従業員の雇用と賃金を保障する一方で、会社≒家の発展のために貢献することを求めた。
従業員としても、会社≒家が発展することで、自身と「仲間」の賃金や福利厚生が増加することを期待し、会社と「仲間」の従業員とが一体感を感じながら、働くことが出来ていた。
日本的雇用慣行が❝あたり前❞と思われていた時代においては、人生の多くの時間を共有する「仲間」と一緒になって、自身と「仲間」の生活を豊かにするため働き、結果的に会社の利潤も獲得するというように、「誰かのため」の対象が身近な「仲間」に向けることもできた。 しかしながら、近年は、長期勤続を希望しない若年層の就業意識も一因となり、会社を疑似家族と見做す傾向は後退を続けている。
疑似家族の後退と伴に上司、先輩、同僚、後輩等を「仲間」と見做す意識も危機に瀕している。
ここから「仲間」と一緒になって、「仲間」のために「働く」という、「誰のため」の意識の一つが失われたといえる。 一般社団法人日本能率協会が2018年に発表した「入社半年・2年目 若手社員意識調査」によれば、所属している「会社」および従事している「仕事」が「社会に役立っている」と感じている社会人の9割以上が、所属している会社と仕事に対して「とても満足」していることが明らかにされている。
働く上で、「誰かの役に立っている」と感じられることは、会社や仕事に対して「満足感」を得るために重要なポイントであると言える。 では、どのような会社が働くことに対して「誰かの役になっている」と感じさせてくれるのだろうか。
一つの示唆が、ジム・コリンズの『ビジョナリーカンパニー』から見出せる。
ジム・コリンズが定義した「ビジョナリーカンパ―」とは、「ビジョンを持っている企業、未来志向の企業、先見的な企業であり、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業」のこと。 そして、このビジョナリーカンパニーの「重要な要素は、基本理念、つまり、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識」であり、「基本理念は、組織のすべての人々の指針となり、活力を与えるものであり、長い間、ほとんど変わらない」という。
また基本理念は「われわれが何者で、なんのために存在し、何をやっているのかを示すものである」。
さらに重要な点は、基本「理念が本物であり、企業がどこまで理念を突き通しているのか」であるという。 ジム・コリンズからの示唆により、会社選びの一つの重要な軸として、
企業が掲げる「企業理念」や「経営理念」に、「単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識」があるかという点をあげられる。 そして、掲げられた「企業理念」や「経営理念」が「単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識」があったとして、「理念」を守り切る意識が会社全体に浸透しているかが、一層重要な点となる。 会社は採用面接の際に多くのことを求職者に問いてくる。
求める職務遂行能力があるかないかを見極めるためには必要な過程といえる。
一方で、求職者も働く場において「満足」を得られるかどうかを見極めるために、企業に「理念」を尋ね、その理念をどのように守ってきたかを問いてみることはどうだろうか。
しっかりした企業理念と、理念を守り抜こうとする姿勢があるかないかは、働く人が充実したキャリアを歩むための会社選びの一つの基準になると思われる。 【引用・参考文献】
・「入社半年・若手社員意識調査」一般社団法人日本能率協会(2018)
・「ビジョナリーカンパニー」ジム・コリンズ(1995) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
「誰かの役に立っている」ことを感じられる仕事や会社が求められている。
一般社団法人日本能率協会が2018年に発表した「入社半年・2年目 若手社員意識調査」によれば、
現在所属している「会社」に対して、「満足」している人は52.1%(「とても満足」14.5%、「満足」20.3%、「やや満足」17.3%)であり、
現在従事している「仕事」に対して、「満足」している人は61.6%(「とても満足」16.3%、「満足」23.8%、「やや満足」21.5%)であった。 同調査では、働く目的の一つである「社会の役に立つこと」について、現在の会社や仕事を念頭に満足度を尋ねたところ、
「満足」している人は51.1%(「とても満足」7.3%、「満足」16.8%、「やや満足」27.0%)であり、
約半数の社会人が働く目的の一つである、自身が所属している会社や仕事において「社会に役立つこと」で満足感を得ていることが分かった。
一方で、働く目的の一つである「社会に役立つこと」への満足度について、現在の会社や仕事において「どちらともいえない」35.3%、「不満」13.9%(「とても不満」3.3%、「不満」3.3%、「やや不満」7.3%)と同じく約半数が、現在の会社や仕事において「社会に役立つ」という満足感を得られていないことも明らかにされた。 さらに、現在所属している「会社」に対して「とても満足」しており、かつ「仕事」に対しても「とても満足」していると回答した人について、働く目的の一つである所属している「会社」および従事している「仕事」が「社会の役に立つこと」で「満足」していると91.5%が回答した(「とても満足」38.3%、「満足」29.8%、「やや満足」23.4%)。
ここから、所属している「会社」および従事している「仕事」が「社会に役立っている」と感じている社会人の9割以上が、所属している会社と仕事に対して「とても満足」する傾向が見出せる。 「会社」と「仕事」が「社会の役に立っている」と感じられることが、会社と仕事への「満足」感を醸成するのではないだろうか。
自分にとって大切な人のために何かしてあげたいと自然に湧き出る愛情のように、仕事・職業においても「誰かの役に立っている」と実感できることを多くの人が求めているのではないだろうか。 現在所属している「会社」および「仕事」に「不満」を抱いている人は、所属している「会社」および「仕事」が「社会に役に立つこと」についても55.9%が「不満」であると回答し(「とても不満」29.4%、「不満」11.8%、「やや不満」14.7%)、32.4%が「どちらでもない」と答えている。
ここからも、「会社」や「仕事」が「社会に役立っている」と実感できているかどうかが、会社や仕事に対する「満足感」の獲得にとって重要であることが示唆されている。 あらゆる側面で「個人化」が進む社会において、人として、そして仕事の本源である「誰かのために役立ちたい」という気持ちを大切にできる会社や仕事が、より求められているのではないだろうか。 【引用・参考文献】
・「入社半年・若手社員意識調査」一般社団法人日本能率協会(2018) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
「大切な人のために何かしてあげたい」、仕事の本質が見え難い世界。
内閣府が1957年から行っている「国民生活に関する世論調査」では、「働くことの目的」について尋ねている。同調査において「働くことの目的」ついて問い始めたのは1997年の第43回調査から。 1997年調査において、日本国民の「働くことの目的」は、
「お金を得るために働く」34.0%、
「生きがいをみつけるために働く」33.1%、
「社会の一員として務めを果たすために働く」16.9%、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」12.7%、
の順であり、1997年当時の「働くことの目的」は「お金を得るために働く」と「生きがいをみつけるために働く」が拮抗していた。
「働くこと」に3割以上の国民が「生きがい」を見出そうとしていた。 4年後の2001年調査では、「働くことの目的」の順位は変わらないものの、
「お金を得るために働く」49.5%と1997年調査から15.5ポイントも増え、
「生きがいをみつけるために働く」24.4%(同8.7ポイント減少)、
「社会の一員として務めを果たすために働く」10.0%(同6.9ポイント減少)、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」9.0%(同3.7ポイント減少)、
と「働くこと」から「生きがい」、「社会の一員としての務め」、「採用や能力の発揮」といった「目的」が薄らいだ。 直近の調査となる2019年調査を見てみると、「働くことの目的」は、
「お金を得るために働く」56.7%、
「生きがいをみつけるために働く」17.0%、
「社会の一員として務めを果たすために働く」14.5%、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」7.9%、
と5割以上の国民が「働くことの目的」を「お金を得るため」と捉えている。 さらに、18歳から29歳の若年層の「働くことの目的」を見てみると、
「お金を得るために働く」65.1%、
「生きがいをみつけるために働く」10.6%、
「社会の一員として務めを果たすために働く」10.8%、
「自分の才能や能力を発揮するために働く」13.0%、
と若年層ほど「働くことの目的」を「お金を得るため」と捉えている傾向が強いことが分かる。 確かに、職業は生活をするためのお金を得るもの、労働の対価として賃金を得るものである。
では、なぜ今から24年前の調査においては「お金を得るために働く」と「生きがいをみつけるために働く」が「働く目的」として拮抗していたのだろうか。
1997年当時は、なぜ働くことに「生きがい」を見出せると捉えていた人が多かったのだろうか。 「生きがい」とは、人それぞれ異なるもの。
特に、職業に関連させての「生きがい」の見出し方はより複雑で、多様なもの。
職業において、一生懸命に仕事に打ち込むことや、時間を忘れて働くことが、全ての人にとっての「生きがい」になるだろうか。 全て人に妥当しなくとも、「働くこと」が「生きがい」になる共通点としては、「誰かの役に立つこと」ではないだろうか。
日本が戦後の復興期から、高度経済成長期、安定成長期を経て、低成長期に入ってから約30年。
戦後の復興を国民全員が願い「日本のため」を思い働いた時代。
日本全体がより豊かになることを願い働いた時代。
自分が所属する「疑似家族」と見做されていた「会社」の発展のためを思い働いた時代。
全ての人に妥当しないまでも、これまでの時代は「誰かのため」に働くことが、今よりイメージし易かった時代と言えるのではないか。 かつて「疑似家族」と見做されていた「会社」の観念は、希薄化し続けている。
「疑似家族」であった会社においては、働くことは「家族のため」と見ることも出来たのではないだろうか。
その観念も今では、会社は生涯勤め上げるのではなく、長いキャリアの一時期を過ごす「働く場所」に移り変わっている。 さらに「分業」がより高度化されることで、自分の行った仕事が誰の役に立つのかますます知覚し難くなっている。 「働くこと」が「生きがいに」になるのは、「誰かの役に立っている」と思えることから生まれるのではないかと考える。
今は「分業」の高度化と、かつて会社が有していた「疑似家族」の観念の希薄化により、働くことによって「誰かの役に立った」という思いを得難い時代と言える。 自身が働いたことで、「誰かの役に立った」という感覚を取り戻すことが必要だと思う。
職業や働くことの原点は、自分の大切な人のために何かしてあげたい、と思う人間としての本源に繋がっている。 大切な家族を駅まで車で安全に送ってあげたいという気持ちは自然に湧き出てくるものだが、
職業としての運転手になった瞬間に「お金を得るため」が前面に表れてしまい、
大切な誰かのために何かしてあげたいと思うことが、職業の前提になっていることを隠してしまう。 自身の仕事が「誰かの役に立っている」ことを知覚し難い時代、それでも会社における仕事が「誰かのため」と思わせてくれる職場に、働く人々が出会えることを願っている。 【引用・参考文献】
・「国民生活に関する世論調査(令和元年6月)」内閣府政府広報室(2019)
・「国民生活に関する世論調査(平成9年5月)」総理府広報室(1997) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
採用選考は「職務遂行が可能か」のみを基準とすること。
2021年10月31日、第49回衆議院議員総選挙の投開票が行われる。
2016年に選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてからは、大学生も衆議院議員総選挙に投票することになった。
2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は53.68%。その内10代の投票率は40.49%、20代では33.85%と、全世代平均よりは少ない投票率であった。
選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから2回目となる衆議院議員総選挙、若年層の投票率が高まることを期待したい。 ところで、厚生労働省では新卒者を含む広く人を雇用する企業に対して、「公正な採用選考」を行うよう指針を示している。
厚生労働省で定める「公正な採用選考」の大きな2つのポイントとして、
①応募者に広く門戸を開くこと。
すなわち、どこの国、地域の出身者であっても、性別・年齢に関係なく、障害を持っていたとしても、性的マイノリティであっても、求人条件に合致する全ての人が応募できるようにすること。 ②本人の持つ適正・能力に基づいた採用基準とすること。
すなわち、応募者が「求人職種の職務を遂行するにあたり、必要となる適性や能力をもっているか」という基準に基づいた選考を行うこと。
求人職種の職務遂行に必要な適性や能力の中に、1)「本人に責任のない事項」、2)「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」は含めてならないとされている。 職務遂行に必要な適性や能力の中に含めてはならないとされている、1)「本人に責任のない事項」2)「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」について具体的な例示もなされており、
1)「本人に責任のない事項」については、
・本籍・出身地に関すること。
・「家族」に関すること(家族の職業・続柄・病歴・地位・学歴・収入・資産など)。
・「住宅状況」に関すること(部屋数、住宅の種類、近隣の施設など)。
・「生活環境・家庭環境など」に関すること。
等は選考基準に含めてはならないとしている。 2)「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」については、
・「宗教」関すること。
・「支持政党」に関すること。
・「人生観・生活信条など」に関すること。
・「尊敬する人物」に関すること。
・「思想」に関すること。
・「労働組合(加入状況や活動歴など)」、「学生運動などの社会運動」に関すること。
・「購読新聞・雑誌・愛読書など」に関すること。
等は、憲法第14条「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」に依拠しながら、選考基準に含めてはならないとしている。 さらに3)として採用選考の方法について、
・「身元調査など」の実施。
・「本人の適正・能力に関係ない事項を含んだ応募書類」の使用。
・「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断」の実施。
等について採用活動に用いてはならないとしている。 新卒者を一括で採用し、定年までの長期間に亘る雇用を前提としている日本的雇用慣行においては、雇用する従業員は正しく「家族」のように見做されていたことから、現在では不適切とされる応募者の家族に関すること、人生観にかんすること、思想に関すること、労働組合や学生運動に関すること、などを聴取する動機が生まれたのだろう。 現在は、日本的雇用慣行は崩れたと言われ、働く人の多くも1つの会社で生涯のキャリアを形成する意欲は薄らいでいる。
「公正な採用選考」の第一にあげらている「本人の持つ適正・能力に基づいた採用基準とすること」に、より近づいているといえよう。 さて「10月31日の選挙に行きましたか?」の質問は、支持政党に関する質問ではないが、思想信条に抵触する質問なのだろうか。
採用就職ゲンバにおける線引きが難しい。 【引用・参考文献】
・「第31回~第48回衆議院議員総選挙年齢別投票率調査」総務省(2019)
・「令和3年度版 公正な採用選考を目指して」厚生労働省(2021) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
仕事や生活に「満足」している中高年層の特徴。充実する働き方への示唆。
2022年卒の新卒者就職・採用活動も終盤になろうとしている。新型感染症が新卒者就職・採用に及ぼす影響も不安視されたものの、2021年10月1日時点の就職内定率は92.4%と高水準を維持した。
2015年3月卒求人倍率1.61倍から続く求職者側(新卒者側)の「売り手市場」は、62.5%の新卒者が複数社から内定を獲得する状況を生み出した。複数の企業から内定を得た新卒者は、必然的に内定を得ている企業の中から社会人をスタートさせる就職先を1社決めることになる。株式会社リクルートキャリアの就職みらい研究所の調査によれば、「就職先を確定する際に決め手となった項目(2020年卒学生上位10項目)」は「自らの成長が期待できる」56.1%であった。
公益財団法人日本生産性本部の「新入社員働くことの意識調査」においては、入社した会社を選ぶ際に最も重視したポイントに「自分の能力、個性が生かせるから」があげられている。 近年の新卒者が就職先に求めることは「自らが成長が期待できる」や「自分の能力、個性が生かせる」こと、言い換えれば主体的なキャリア形成が叶えられること、と言えるのではないだろうか。
近年の若年者にとって「自らが成長できる」ことや「自分の能力、個性が生かせる」ことが、仕事に求めること、ひいては人生の中における職業の充実に繋がると考えているのではないだろうか。 それではここで、職業人生すなわちキャリアの中盤から後半にいる40代後半から60代前半の社会人の中で、仕事や生活に「満足」している人の特徴を見てみたい。仕事や生活に「満足」している中高年層の特徴を見ることで、新卒者が初職に期待している「自らが成長できる」ことや「自分の能力、個性が生かせる」こととの関連性を考えてみたい。 株式会社リクルートHR研究機構の「40代後半~60代前半の働く価値観調査」によれば、
「生活全般」について「満足度」が高い人の特徴は、「将来のキャリアのために行動を起こしている」人(84.7%が満足)と「具体的なキャリアプランが描けている」人(85.0%が満足)であった。 さらに、「勤め先」について「満足度」が高かったのは、「具体的なキャリアプランが描けている」人(83.4%が満足)であった。
「仕事内容」についても「具体的なキャリアプランが描けている」人(83.8%が満足)と「将来のキャリアのために行動を起こしている」人(81.5%が満足)の満足度が高い。
「ワークライフバランス」についても「具体的なキャリアプランが描けている」人(80.0%が満足)と「将来のキャリアのために行動を起こしている」人(79.7%が満足)の満足度が高いことが分かった。 一方で「勤め先」、「仕事内容」、「ワークライフバランス」、「生活全般」について満足度が低かったのは、「自分に自信が持てず将来も不安」な人であった。 この調査から、キャリアの中盤から後半にいる40代後半から60代前半の社会人の中で、仕事や生活に高い「満足度」を有している人は「具体的なキャリアプラン」を描き、「将来のキャリアのために行動を起こしている」といった特徴が見えてくる。
職業人生の中で、仕事や生活に満足を与える大きな要因は、主体的にキャリアを展望することや望むキャリア形成のために具体的に行動すること、であると言えよう。 新卒者が就職先に求めることを改めて見てみると、「自らが成長が期待できる」や「自分の能力、個性が生かせる」ことであった。
「自らが成長が期待できる」や「自分の能力、個性が生かせる」ことは、中高年層の仕事や生活に満足を与える多いな要因である「具体的なキャリアプラン」を描き、「将来のキャリアのために行動を起こしている」ことと、単語は違えど近接する意味を表現しているのではないだろうか。 「自らが成長」するためには、具体的なキャリアプランを描くことが、適切な手段となりうる。
自分の能力や個性を生かすためにも、具体的なキャリアプランに則して行動することが、より能力を発揮するための有効な手段となりうる。 多くの新卒者が会社選びの際に決め手としている「自らが成長が期待できる」や「自分の能力、個性が生かせる」ことは、現在の中高年層の社会人にとってても、仕事や生活に満足を与える源泉となっている。
主体的に働くこと、生きることは、若年者から高齢者まで変わることなく、充実や満足を得るために不可欠なものと考えられる。 【引用・参考文献】
・「就職プロセス調査(2022年卒)『2021年10月1日時点 内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「就職プロセス調査(2020年卒)【確定版】『2020年3月度(卒業時点)内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「平成31年度新入社員『働くことの意識』調査結果」公益財団法人日本生産性本部(2019)
・「40代後半~60代前半の働く価値観調査」株式会社リクルートHR研究機構(2021) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
「やりたいこと」を探求するチカラのつけ方②。「学ぶ」人の特徴。
2021年4月1日、改正「高年齢者雇用安定法」が施行され、従業員を雇用する事業主に対し、65歳までの雇用確保義務に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するための努力義務が課せられた。
今回の改正法において、雇用する従業員が70歳まで働くことのできる就業機会を確保するよう「努力」することが義務化されたことにより、働く人にとっては学校卒業後から70歳までの約50年間、「キャリア」が求められるようになった。 日本が長い時間を掛けて培ってきた新卒者一括採用、一律の人材育成プログラム、長期勤続、結果としての終身雇用といった雇用慣行は、雇用側と被雇用者側双方の様々な要因の「変化」により、崩れ去ろうとしている。
被雇用者側、つまり働く人の変化としては「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」34歳以下の若者が約6割に及ぶ。
雇用側、つまり経営者が長期勤続を一律に従業員に提案したとしても、雇用されている従業員側が一つの会社に長期勤続したいと思っていない。
このことは、新卒者として複数名を一括で採用し、社会人をスタートさせる4月から一律に施す人材育成プログラムによって育成し、❝同期❞同士で競い合いながら経営幹部を目指させる、理想的な人事モデルが、従業員側の意識変化を一つの大きな要因として機能不全を起こす可能性を示唆している。
経営側としては、このような理想的な人事モデルが崩れることに対して、必要な人材を獲得するため、従来型の毎年1~2%づつ賃金が上昇していく「年功賃金」から、長期勤続を前提とせず現在の職務遂行能力に対して報酬を支払う「職務給」を採用するなど、自社があらゆる変化に対応し勝ち残っていくため積み重ねてきた人事制度を変革させている。
経営は、勝ち残るために、組織の在り方をも自在に変えていくものと言える。 一例ではあるが、新卒者一括採用、長期勤続、結果として終身雇用等が働く人の意識変化を一つの要因として機能しなくなったことに対して、企業はそれらの「環境変化」を乗り越え、勝ち残るために、企業が「今」必要としている職務遂行能力を備えた人材を採用するため、「年功給」を基準とする水準より高い報酬を提示し、雇用する動きが広がっている。
長期間かけて培われてきた雇用慣行や賃金制度は、短期間で極端に変化することは考え難いが、長期勤続を前提とする雇用制度が揺らぎ続けた先には、勤続年数によって賃金が上昇する現在の賃金慣行から、働く人が有する「現在」の職務遂行能力に対して賃金を提示する、いわゆる「職務給」が日本のスタンダードな賃金慣行に取って代わる可能性も否定し難い。
「職務給」の人事制度の下では、雇用される企業内における職務分担と賃金水準は、従業員の職務遂行能力がベースとなる。 さて、「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」働く人は、生活の糧を得るため、他の雇用先を探すか(転職するか)、自ら業を興すか(起業する)、どちらかを選ばなければならないだろう。
4月1日に施行された改正「高年齢者雇用安定法」によって、65歳から70歳までの就業機会を確保するための努力義務が課せられたことは、近い将来、国が年休支払い年齢を70歳に引き上げる青写真を描いていることは想像に難くない。
働く人にとっては、年金支給年齢を引き上げられることで、結果として70歳まで賃金を得られる仕事を行わなければならないプレッシャーが高まることになる。
崩れつつある新卒者一括採用、一律の人材育成プログラム、長期勤続、結果としての終身雇用等の雇用慣行の中で、働く人は70歳まで賃金が得られる仕事を展望しなければならない時代に移り変わろうとしている。
新たな日本的雇用慣行の照準の一つは、働く人の「現在価値」つまり「今」働く人が有している職務遂行能力に対して、職務や賃金を提示する「職務給」の世界観を見据えているのではないだろうか。
「職務給」の世界観において、働く人が「やりたいこと」の実現、すなわち転職や起業の実現の基礎となるのは、個人が有する職務遂行能力となる。
そして、働く人個々人が有する職務遂行能力の獲得は、これまで日本的雇用慣行のように一律従業員全員に提供される人材育成プログラムではなく、個々人が自ら社外または社内で獲得しなければならないものとなる。
働く人も望んだことを一因として揺らぎ続けている伝統的な日本の雇用慣行は、職務遂行能力の獲得について、入社した会社が提供する人材育成プログラムに期待することが難しくさせ、キャリア形成の大部分を働く人個人が自ら切り拓くことを推し進めようとしている。 自らの意志でキャリアを選び、行動している人の方が、職務遂行能力を自ら高めていることを明らかにした調査がある。
一般財団法人企業活力研究所の「『学び』を支える❝学習習慣❞のある人材の確保・育成に向けた人事戦略に関する調査研究報告書」によれば、働く人の中で自ら「学ぶ」学習慣習がある人は、
・転職の経験がある人
・大きく仕事内容が変化した経験がある人
であった。 転職(や転籍)を経験した人の「学習習慣がとてもある」と回答した割合は58.6%であったのに対し、転職(や転籍)の経験がない人の学習習慣は、17.2ポイント低い結果であった(転職経験のない人で「学習習慣がとてもある」と回答したのは41.4%であった。逆に「学習習慣がない」は63.1%だった)。 同じく、大きく仕事内容が変化した経験がある人の「学習習慣がとてもある」割合が58.6%であったのに対し、大きく仕事内容が変化したことのない人の学習習慣は17.2ポイント低くなっている(大きく仕事内容が変化したことのない人で「学習習慣がとてもある」と回答したのは41.4%であった。逆に「学習習慣がない」は60.3%だった)。 この調査からは、変化している働く人の新卒者として入社してからのキャリア形成に関する意識に対応するように、実際に転職を行った人の方が自己のエンプロイアビリティを高めるため、「学び」「学習習慣」を身につけていることが分かった。 働く人の雇用されることに関する意識は変化し続けている。
そして、自ら望むキャリアをデザインするための着実に準備を行う人も増えている。 【引用・参考文献】
・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018)
・「『学び』を支える❝学習習慣❞のある人材の確保・育成に向けた人事戦略に関する調査研究報告書」一般財団法人企業活力研究所(2019) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
「やりたいこと」を探求するチカラのつけ方①。「学ぶ」会社の特徴。
1990年代後半から新卒就活生の就職活動準備に欠かせないツールの一つに、「自己分析」が定着化している。
バルブ経済崩壊後、日本企業は経済過熱期に抱えた多くの「過剰」を正常値に戻すため、「リストラ」の名のもとに企業から❝掃き出し❞を断行した。経済が過熱状態から後退局面となり、企業の生産活動にブレーキを掛けることで生じた過剰人員を、事業再編と称した人員削減=「リストラ」が行われ、多くの企業で大規模に従業員が削減された。
正規従業員の大幅な人員削減が断行される傍らで、1990年代後半に大学卒業を迎えた新卒者の採用枠も厳しく抑制された。新卒者にとっての「就職氷河期」の到来である。
新卒者の「就職氷河期」の到来と時を同じくして、新卒者が大学卒業後にどのような働き方をしたいのか、どのような仕事を望んでいるのか、志望する望む働き方や仕事を実現できそうな会社を自ら選択するように促す、「主体的なキャリア形成」の必要性が言及され始める。
「主体的なキャリア形成」の計画策定のためのツールとして、自己の望みや傾向を、過去の経験から明確化させていく「自己分析」が瞬く間に広く新卒者の間で取り入れられていった。
「自己分析」で自己を分析する際に根幹を成す❝問い❞に、将来「やりたいこと」があげられる。主体性を持ってキャリアを切り拓いていくために不可欠となる「芯」が、将来自分はどうありたいのか、ありたい自分に近づくためにどのようなことを職業上に求めるのか、将来「やりたいこと」とは何か、である。 主体的なキャリア形成を新卒者自らに問う風潮が一般化してから約25年、主体的に「やりたいこと」を追い求めるマインドを持った若年者の多くは、長期勤続を前提とした日本の雇用慣行に抗うように、新卒者として入社した会社に生涯に亘って勤め上げたいとは考えていない。
就職活動を通じて、主体性を持つこと、主体的に働き方・生き方を選ぶことを、求められた結果、長く続く長期勤続の雇用慣行にも拘わらず、数カ月から数年で初職を辞め、転職を繰り返すキャリアを歩む若年者が増えている。 政府が政策として掲げ、各施策を展開してきた若年者の主体的なキャリア形成に向けての取組み。その効果もあり、若年者は主体的に職業、会社を選ぶため、結果として、比較的短期間の内に転職を繰り返すキャリア形成も特異なものではなくなりつつある。 主体的キャリア形成、「やりたいこと」の実現、これらの源泉になるのは、個々人が培った能力である。
企業において求められる個々人の「能力」については、非常に幅広く、一つ一つ言及していくことは難しい。ここでは、転職を伴う企業横断的な主体的なキャリア形成を念頭に置き、勤務時間内に得られる経験や知識に加えて、「やりたいこと」が出来そうな企業に転職する際に不可欠となる、業務経験以外の主体的な「学び」についてフォーカスしたい。 より「やりたいこと」に近づくため、キャリアアップのための転職を含むキャリア形成のためには、所属する企業の業務経験だけでは、他社でも活かすことのできる汎用的な能力を身につけられるとは限らない。「やりたいこと」の実現のための仕事探し、会社探しの選択肢を広げるためにも、業務経験以外の「学び」が重要となる。業務経験に加え、主体的に「学ぶ」ことで、様々な企業で活躍できる能力が培われると考える。 では、主体的に「学び」が行われる会社とは、どのような特徴を持った会社なのだろうか。
言い換えれば、個々人が主体的なキャリア形成のために「学び」易い会社とはどのような会社だろうか。
主体的な働き方、生き方の側面から見た「良い会社」とはどのような特徴があるのだろうか。 一般財団法人企業活力研究所が行った調査結果によれば、自ら「学ぶ」慣習がある人材が所属する会社の職場風土として、
「主体性・自主性を重視する風土」があること、
「人材育成・自己啓発を促進する風土」があること、
「変化対応力を重視する風土」があること、
といった特徴があげられる。 一方で、「成果主義・実力主義を重視する風土」がある会社と、自ら「学ぶ」慣習ある人材との関連は相対的に小さいことが指摘されている。 同報告書では、個々人の「学ぶ」気持ちを高め継続されるためには、人材育成・自己啓発を促進する風土を醸成されていることに加え、個々人の主体性や自主性を引き出すことが大切である、と結論づけている。
個々人の主体性や自主性を引き出すには、職場内にチャレンジする風土が根付いているかの点がカギとなる。 「やりたいこと」の実現・探求、主体的な働き方・生き方の観点から見た「良い会社」とは、
主体性や自主性を重視する風土があること、
主体性や自主性を重視する風土の醸成には、チャレンジすることが許容される会社の雰囲気が重要であること、
このような風土、雰囲気がある職場で、個々人が自ら「学び」続ける会社が、「良い会社」と思う。 主体的な生き方にとっての「良い会社」。
それは「学び」続ける会社だと思う。 【引用・参考文献】
・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018)
・「『学び』を支える❝学習習慣❞のある人材の確保・育成に向けた人事戦略に関する調査研究報告書」一般財団法人企業活力研究所(2019) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
「やりたいこと」は知っている範囲から…?小学生「大人になったらなりたいもの」調査。
第一生命保険株式会社は、全国の小学生を対象に行った「第32回大人になったらなりたいもの」によれば、男子の大人になったらなりたいもの第1位は「会社員」、女子の第一位は「パティシエ」となった。
同調査は、1989年に第1回調査が行われ2020年12月調査で32回目を数える。 これまでの調査結果と同様に、特に男子の上位にあげられる「大人になったらなりたいもの」は僅差であった。
第1位は会社員で8.8%、2位がYouTuber/動画投稿者8.4%、3位がサッカー選手7.6%、4位がゲーム制作7.2%、5位が野球選手6.4%、6位が鉄道の運転士、7位が警察官4.5%、9位が料理人/シェフ3.4%、10位が同率でITエンジニア/プログラマーと教師/教員2.9%となり、1位から10位までが数ポイントの僅差で続いている。
女子については、第1位のパティシエが14.1%で多くの回答を集めているが、2位以下は男子と同様に僅差で「なりたいもの」が続いている(2位教師/教員 7.1%、3位幼稚園の先生/保育士6.0%、4位会社員5.8%、5位漫画家4.5%、6位料理人/シェフ4.3%、6位看護師4.3%、8位芸能人/アイドル3.8%、9位公務員 3.4%、9位医師3.4%)。 「大人になったらなりたいもの」の調査項目や収集方法に変更が加えられているため、一概に現在調査との比較は難しいものの、前回の第31回調査では、男子の「なりたいもの」第1位はサッカー選手で9.3%、2位は野球選手9.1%、3位が警察官・刑事5.8%であった。第32回調査で第1位となった会社員はランク外だった。
女子の前回調査の第1位は食べ物屋さんで15.9%、2位は保育園・幼稚園の先生9.1%、3位は看護師6.6%となっている。 さらに「大人になったらなりたいもの」1989年の第1回調査では、男子の「なりたいもの」の第1位は野球選手で15.1%、2位は警察官・刑事で7.0%、3位はおもちゃ屋さんで5.0%と、小学生男子の「なりたいもの」は2位と8.1ポイントの差をつけて野球選手だった。
女子の「なりたいもの」第1位は保育園・幼稚園の先生で12.0%、2位はお菓子屋さんで8.5%、3位が学校の先生で8.1%であった。 この調査結果を見ると、小学生が「大人になったらなりたいもの」は、自分が「知っている」仕事や職業であることが分かる。
年代によって順位の変動はあれど、男子女子ともに「知っている」ことが「大人になったらなりたいもの」の原点になっていると思われる。
「大人になったらなりたいもの」が自身が「知っている」範囲内で選択されていることが正しいとして、大学生が自己分析で問われる「やりたいこと」の選択行動と違いはあるのだろうか。
もし小学生の「大人になったらなりたいもの」の選択と、大学生の「やりたいこと」の選択の原点が共通して、自身が「知っている」かどうかにあるとすれば、「やりたいこと」の選択肢を広げるために、「知っている」範囲を広げることが求められるのではないだろうか。 1990年代後半から盛んに言われるようになった「キャリア教育」によって、インターンシップ等の手法により「知っている」ことの範囲を広げる施策は行われている。しかしながら、就職活動をスタートさせる20代前半までに広げられる職業に関する知識、経験には限りがある。
厳格な意味で職業、仕事についてリアリティを持って「知っている」を大きく広げるためには、自身が実際に職業に就き、働き、働きながら得られる知識、情報が必要となるだろう。 大切なことは、小学生に限らず大学生においても「知っている」範囲で選択した「やりたいこと」が、実際に自身で働くことを通じて得た知識、経験を基に「やりたいこと」を再定義し直した時、その「やりたいこと」を実現できる「力」を蓄えているかだと思う。
大学時代までに得た知識、経験で一旦は定めた「やりたいこと」であっても、「知っている」ことが広がることによって、「やりたいこと」が変わる可能性は大きくある。逆に、就職活動を迎えてもなお「やりたいこと」が定まっていなくとも、実際に働き出し「知っている」ことが広がり、「やりたいこと」が定まる可能性もまた大きくある。 「やりたいこと」が定まった時に、動き出せる「力」を如何に日頃から蓄えるかが、主体的なキャリア形成、豊かな人生には必要だと思う。 【引用・参考文献】
・「第32回『大人になったらなりたいもの』調査結果」第一生命保険株式会社(2021)
・「第31回『大人になったらなりたいもの』調査結果」第一生命保険株式会社(2020) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談
就職後「やりたいこと」が変わった時に実現できるか…。人生を選択できる学びを。
一般社団法人企業活力研究所が行った調査によれば「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」と回答した34歳以下の従業員は59%に及ぶ。
新卒者就活生が自己分析を基に「やりたいこと」を定め、望む業界、職種、会社に向けて「志望動機」を構築し、数段階の選考プロセスを経て、社会人の第1歩を歩み出す就職先を確定させていく。
2015年3月卒求人倍率1.61倍から続く求職者側(新卒者側)の「売り手市場」は、新卒者の半数以上が1社から内定を得た後も就職活動を継続し、実に62.5%の新卒者が複数社から内定を獲得する状況を生み出した。1社から内定を得た後も就職活動を継続することは、より望む働き方、生き方を探求する志向の表れともいえよう。より自己の「やりたいこと」、望む働き方、生き方を探求する姿勢は、新卒就活生の必須の準備ツールのーつに組み込まれて久しい「自己分析」の副産物とも考えられる。大学生がこれまでの人生と向き合い、これからの生き方を模索する「自己分析」は、就職活動が始まる前までに、仮であっても一定の方向性、「答え」を出すことが求められる故に、移ろい易い、安定性を欠く「答え」でもある。加えて、企業が新卒就活生に開示する情報も、事業運営上不利になるような情報を出すことは難しく、限定された情報提供とならざるを得ず、新卒就活生にとっては「やりたいこと」が内定先企業で叶えられるかの確証が揺らぐこともありうる。
求職者側の「売り手市場」に加え、「自己分析」の副次的効果により、6割を超える新卒者が複数企業から内定を得る状況を作り出したと考えられる。 複数企業から内定を得て、熟慮の上4月から社会人をスタートさせる1社を選択しても尚、34歳以下の59%が「今の会社で定年まで勤め上げたいとは思わない」と答える。
自身の「やりたいこと」を探求することを就職活動のスタンダードと見なされ始めた頃から、転職を伴いながら企業横断的に「やりたいこと」を追求するキャリア志向が培われたと見ることもできる。
自身が望む働き方、生き方を探求することは、主体的なキャリア形成とも言えるため、推奨されるべき思考と思う。 さて、ここで新卒者の採用基準の中で、大学での成績を重視する企業が増えていることに注目したい。
大学での成績を改めて重視し始めた背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)、働き方改革、カーボンニュートラル社会実現など、経営そのものを転換する程の大きな変革を企業は求められており、その変革を成し遂げるためには、現在の事業と事業を取り巻く様々な要因とを俯瞰し、変革の設計図を描くことができる、基礎学力が高い人材を求める傾向が強まっていることが一因としてあげられる。
様々な事業環境変化に対応できる人材は、普遍的な基礎学力を備えた人材と目されることが多い。 新卒就活生を経て、社会人となった後の「やりたいこと」についても、「やりたいこと」を実現するためには、普遍的な基礎学力が求められるのではないだろうか。個人が思う「やりたいこと」は、既に誰かが行っていることではなく、新たに自らが創り出すことが多いのではないか。新たに仕事として生み出すためには、商品・サービスとして届けるまでの事業設計図を描くことが求められ、その設計図を描くには、やはり経験や勘だけではなく、論理的な思考が求められると思う。論理的思考を養うには、学びの時間が必要となる。 リクルートワークス研究所の調べによると、過去1年間に自分の意志で仕事にかかわる知識や技術の向上のための取組み( 本を読む、詳しい人に話を聞く、自分で勉強する、講義を受講するなど)、つまり自己学習を行ったかを尋ねたところ、社会人の33.1%が自己学習を行ったと回答した。この調査では、社会人の7割弱が過去1年間にわたって、自分の意志で自己学習を行っていないことが分かる。 世界的に見て日本が「働き過ぎ」とされていた時代から、働き方改革が進み、2000年の年間総実労働時間数1,859であったものが、2019年は1,733時間と年間労働時間が100時間以上削減されている。このことは、長時間労働だから自己学習ができない、という「できない理由」が全面的には受け入れ難くなっていることを示している。
リクルートワークス研究所の調査結果においても、労働時間が削減されても、自己学習を行う割合は有意に増加しなかったことが明らかにされている。
以前より短い労働時間であったとしても、その時間を学びの時間には使う傾向は確認されていない。 新卒就活生時代から自己と向き合い続け「やりたいこと」を探求し続ける姿勢は、社会人になっても変わらず見られる傾向として定着したと考えられる。
但し、「やりたいこと」を実現するためには、雇用された会社での職務経験のみでは不十分ではないだろうか。
働き方改革が進められる中で、総労働時間の削減のため、企業は従業員へのOJT及びOFF-JTの教育訓練時間を削減させている。このことは、以前よりも従業員の職業能力の伸長が自己学習に委ねる傾向が強まっていることを暗示している。
しかしながら、現実としては社会人の7割弱が自主的に学ぶことをしていない。 「やりたいこと」を探求する志向は主体的なキャリア形成にとって望ましい。大切なことは、それを実現する職業能力がいかに主体的に養うか、だと思う。
「やりたいこと」を探求する志向とともに、主体的に学ぶ志向の定着にも期待したい。 【引用・参考文献】
・「就職プロセス調査(2022年卒)『2021年10月1日時点 内定状況』」就職みらい研究所(2021)
・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018)
・「毎月勤労統計調査 令和2年度分結果確報」厚生労働省(2020年)
・「どうすれば人は学ぶのか—『社会人の学び』を解析する—」リクルートワークス研究所(2018年) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談