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2022新卒者が牽引する2050年、日本の経済的ポジションは

2022新卒者が50代となり、日本の社会経済を牽引する世代となる30年後の2050年、わが国の世界経済における立ち位置はどのようになっているのだろうか。 グローバル経済の主要な役割を果たしている日本、その立ち位置の変化を踏まえ、今を生きる新卒者がどのような気持ちで社会に出て、どのようなキャリアを積むことが、個人にとっての幸せに繋がるかを考えてみたい。 PwC Japanグループが発表した「長期的な経済展望 世界の経済秩序は2050年までにどう変化するのか?」では、世界のGDP総額の85%を占める、経済規模で見た世界上位32カ国について、2050年までのGDPの潜在成長に関する長期予想をしている。 この調査では、購買力平価(PPP)ベースのGDP(国内総生産)を用いており、調査時の2016年の時点で中国が21,269(2016年基準の10億米ドルベース、以下同じ基準値)で1位、アメリカが18,562で2位、インドが8,721で3位、そして日本が4,932で4位、ドイツが3,979で5位であった。 そして今から9年後の2030年のPPPベースGDPの予測では、1位中国、2位アメリカ、3位インド、4位日本は変わらないが、5位にインドネシアが入ってくる。 さらに今から約30年後の2050年のPPPベースGDPの予測では、1位中国(58,499)は変わらないが、インド(44,128)がアメリカを抜き2位に、アメリカ(34,102)は3位に後退し、インドネシア(10,502)が4位に上昇する。日本(6,779)は、ブラジル(5位、7,540)、ロシア(6位、7,131)、メキシコ(7位、6,863)に抜かれ8位となる予測となっている。 約30年後の2050年の世界経済では、中国が世界のGDPの20%を占める一方、EU27ヵ国の世界に占めるGDPは10%を下回る見込みとなっている。 では、このようなGDP予測の根拠となった4つの因数を見てみよう。 ①人口動態、特に生産年齢人口の成長。 ②労働の質(「人的資本」)の成長。労働者に対する現行の平均教育水準および予想される将来の平均教育水準に関連すると仮定して設定。 ③物的資本ストックの伸び。 ④技術の進歩。 日本が2050年の世界においてGDPランクが8位に後退する主要な要因として第一にあげられるのは、①人口動態、特に生産年齢人口の成長である。 生産年齢人口とは15歳~64歳までの人口を示し、国立社会保障・人口問題研究所の研究によれば、2021年の日本の総人口は1億2,441万人であり、15歳~64歳の生産年齢人口は7,355万人、総人口に占める生産年齢人口は59.1%である。 そして同研究所による2050年の推計では、総人口は9,817万人に減少し、生産年齢人口も5,065万人、総人口に占める生産年齢人口は51.6%ととなる見込みである。 人口動態の変化、特に生産年齢人口の縮小は、日本にだけ見られる現象ではなく、教育水準が上がり、乳幼児の死亡率が低下し、働く女性が増えるに伴い、出生率は低下し、さらに生活水準の向上や医療の進歩によって寿命が長くなることで、相対的に生産年齢人口が縮小することは、他の先進国でも同様に起きている。 経済成長のみが幸せの源泉ではないとしても、「豊かな生活」を送るためには経済は切り離せない。約30年後の世界で日本は、人口動態の変化を大きな要因としてGDPランクの後退が予測されている。国民の一人ひとりが「豊かな」人生を過ごすために、2022新卒者=今を生きる若者が出来ることはどのようなことだろうか。 PwCレポートでも示唆されていることは、教育の質の向上である。GDP予測の4つの因数の②労働の質の成長の基盤となる、労働者に対する将来の平均教育水準がより重要になると思われる。 AI技術研究者のレイ・カーツワイルは、人工知能は2045年にも人間の知能を超える、「シンギュラリティ」(技術的特異点)が起こることを指摘した。人間の知能をも超えるAIが普及することで、失われる職業が出るだろう。個人の生活の基盤となる職業が失われることは、計り知れない動揺を生むだろう。 新卒者として社会に出て40年以上も続くであろうキャリアの中で、グルーバルな経済変化、AIを筆頭とする技術革新など、数多くの外部要因から個人のキャリア形成は影響を受け、思い通りに行かないことも多い。自己の思い描くキャリア、まさに「やりたいこと」は、社会に出た後も幾度となく外部要因によって危機に晒されるだろう。 変わり続ける世界、社会において、個人にとって幸せなキャリア、人生を歩むため、幾度となく外部要因に動揺させられることがあっても、「やりたいこと」を続けられる「ケイパビリティ(能力)」を持つことが大切であると思う。そのためには、社会に出た後も「自分の幸せな人生」のために学びを続けて欲しいと願う。個人が幸せな人生を過ごすために行う学びが、結果的に、②労働の質の成長の基盤となる、労働者に対する将来の平均教育水準を引き上げることに繋がることを期待したい。 30年後の日本が経済的にも、気持ちの上でも「豊か」であることを期待したい。 【引用・参考文献】 ・「長期的な経済展望 世界の秩序は2050年までにどう変化するのか?」PwC Japanグループ(2017) ・「日本の将来推計人口」国立社会保障・人口問題研究所(2017) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「就職氷河期世代支援プログラム」対象は「不本意に非正規雇用で働く者」

2019年12月、政府は「就職氷河期世代支援に関する行動計画2019」を策定、公表した。 この支援策の対象となるのは、政府見解によれば1993年から2004年までに新卒者として就職活動を行ったいわゆる「就職氷河期世代」であり、支援策が策定された2018年、就職氷河期世代とされる35~44歳は1,689万人、そのうち「正規雇用を希望していながら、現在は非正規雇用で働いている者」50万人、および「就業を希望しながら、様々な事情により求職活動をしていない長期無業者」「社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする者」40万人とされている。 政府方針では、就職氷河期世代の正規雇用者を30万人増やすことを掲げている。 「正規雇用を希望していながら、現在は非正規雇用で働いている者」をさらに詳してみてみると、株式会社マイナビが発表した「就職氷河期世代の実情と就労意識」によれば、現在非正規社員として働いている方に正社員としての勤務意向を尋ねたところ、就職氷河期世代の39.7%が正社員として雇用されることを希望していることが分かった(「現在の勤務先で、正社員として勤務したい」8.0%、「現在とは別の勤務先で、正社員として勤務したい」14.7%、「漠然とだが、ゆくゆくは正社員として勤務したいと思っている」17.0%)。 また、就職氷河期世代の男性に限っては、半数以上の55.0%が正社員として勤務することを希望している(「現在の勤務先で、正社員として勤務したい」13.6%、「現在とは別の勤務先で、正社員として勤務したい」18.2%、「漠然とだが、ゆくゆくは正社員として勤務したいと思っている」23.2%。女性は36.8%が正社員として勤務することを望んでいる)。 さらに、就職氷河期世代で非正規社員として働いている方の転職意向を尋ねたところ、62.9%が転職を希望していることが分かった(「現段階で転職や就職したいと考えており活動も行っている」8.4%、「現段階で転職や就職をしたいと考えているが活動はしていない」21.7%、「いずれは転職したいと考えてい る」32.8%)。 転職を希望する理由として最も回答率が高ったのは「給与に不満があるため」で29.8%であった。 就職氷河期世代は、学校から社会への移行の第一歩目となる新卒者として迎えた就職活動そのものが非常に過酷なものとなったが、その後のキャリアについても苦しい状況が続いていることが次の調査から分かる。 株式会社リクルートジョブズが行った「就職氷河期世代の働き方に関する実態と意識―個人調査と企業調査から―」では、就職氷河期世代(35歳~49歳)で正規社員もしくは非正規社員が直近1年間で転職した結果、正規社員として転職した割合は14%という結果となった。 就職氷河期を1993年から2004年と定義した場合、就職氷河期の起こりから20年が経過しようとしていることになる。 就職氷河期は、どんなに頑張っても「正規雇用を希望していながら、現在は非正規雇用で働いている者」や「就業を希望しながら、様々な事情により求職活動をしていない長期無業者」、「社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする者」を生み出した。 現在は新卒者の「売り手市場」と言われている。 新卒者の「売り手市場」が続く限り、新卒者には望むキャリアのスタートを切って欲しいと切に願う。 不本意なキャリア形成を強いらせる世代は二度と生み出してはならないと心から思う。 【引用・参考文献】 ・「就職氷河期世代支援に関する行動計画 2019」内閣官房(2019) ・「就職氷河期世代の実情と就労意識」株式会社マイナビ(2021) ・「就職氷河期世代の働き方に関する実態と意識―個人調査と企業調査から―」株式会社リクルートジョブズ(2020) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「仕事中毒」?今は「余暇」重視。では、意義ある生き方とは…。

「世界価値観調査」とは、延べ100ヵ国以上の国都地域を対象とし、その国民の価値観を聞くもので、調査範囲は政治観、経済観、労働観、教育観、宗教観、家族観など290項目に及ぶ。同調査は1981年に第1回調査が行われ、2021年3月に電通総研および同志社大学が「第7回世界価値観調査レポート」を発表した。 日本における郵送法を用いた調査は2019年9月に実施されている。 日本人はかつて「仕事中毒」「ワーカホリック」と揶揄される程、長時間労働、仕事・会社優先の国民性として世界に知られていた。 では2021年現在、わが国の勤労観「働くこと」への意識は、世界各国と比較した場合、どのような位置を占めているのだろうか。 「あなたの生活に【仕事】は重要か」の問いに対して、「非常に重要」「やや重要」を合わせ81.3%の日本国民は、仕事を生活において重要と捉えている。 生活において仕事を重要なものと意識している割合81.3%は、調査対象国77カ国中71位の割合であり、世界的に見て、日本国民における仕事に対する重要度は低いと言える。 生活における仕事の重要度を過去の調査から推移を見てみると、1990年では「非常に重要」「やや重要」と回答した割合は80.5%、1995年では87.5%、2000年では84.2%、2005年では84.9%、2010年では84.2%と、1995年を頂点に、日本国民における生活における仕事の重要度は下がっていることが分かる。 一方で、「あなたの生活に【余暇時間】は重要か」について、「非常に重要」「やや重要」を合わせ91.4%が余暇時間を生活の中で重要と捉えている。余暇時間については、調査対象国77カ国中21位となり、世界的に見ると日本国民は生活の中における余暇時間を大切にしている国民性であるといえよう。 さらに「たとえ余暇時間が減っても、常に仕事を第一に考えるべきだ」に対して、「強く反対」「反対」を合わせると59.2%が仕事を第一に考えることに対して、反対の意識を持っている。常に仕事を第一に考えることに対する反対意識は、調査対象国77カ国中2位となった。 2019年の世界価値観調査に現れている国民性だけを見ると、かつての「仕事中毒」「ワーカホリック」と称された強い勤労観は失われているように思われる。 仕事だけが人生において重要視されるべきものではない、ことは確かかもしれない。 しかしながら、仕事は自分だけのためではなく、他人のために行う行為であることも否定しえない。 かつての仕事中心主義の反動で、現在の日本国民における勤労観が形成された可能性は高いといえよう。 職業労働、つまり仕事の生活における重要度は下がったとしても、他者のために行う行為も失われていくことについては、一度立ち止まって考えるべきことだと思う。 仕事以外を通じた他者のためを想って行う行為も失われてしまっては、他者を愛し、他者から愛されるという、人生を意義深いものにしてくれる一つの源泉も失ってしまうのではないか。 職業労働に対する重要度は薄らぐ一方、他者を思いやる行為の重要性が増すことを期待せずにはいられない。 【引用・参考文献】 ・「第7回世界価値観調査レポート」電通総研・同志社大学(2021) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

自己分析で辿り着いた「やりたいこと」は実際どのように扱われるのか

大学新卒者の採用・就職活動の開始時期は、就職協定の改定の歴史と共に変更され続けてきた。現在の3月1日広報活動開始、6月1日採用選考活動開始、10月1日以降正式な内定とする、採用・就職活動スケジュールは、2017年卒からである。約10年前の2012卒の採用・就職活動のスケジュールは、現行よりも5カ月早く(大学3年の)10月1日広報活動が開始され、採用選考活動開始も4月1日からとされていた。 採用・就職活動の時期が大学3年次の10月1日に開始されることにより、就職活動の「早期化と長期化」の問題が指摘され、2013年卒からは12月1日に広報活動開始が「後ろ倒し」された。2016年卒からは現在と同様の3月1日広報活動開始にさらに「後ろ倒し」されている。 近年では最も早く採用・就職活動が開始されていた2012卒までであれば、10月1日に広報活動がスタートしていたこともあり、9月中旬といえば、学生も企業の採用担当者も間もなく開始される採用・就職活動に向けて準備を整えていた時期といえる。 後に「就職氷河期」と称されるようなった1990年後半から2000年前半までの厳しい新卒者労働市場の真っただ中においても、新卒者にとって初職を探す就職活動において「自己分析」は浸透していた。 「自己分析」の中でも「やりたいこと」探しは、現在の新卒者にとっても重要な就活プロセスとして定着している。そして、この就活プロセスが新卒就活生を困惑させる大きな要因ともなっている。 では、10年前であれば10月を前にして、そろそろ新卒就活生が取り組み始める「自己分析」と、分析項目の一つである「やりたいこと」は、実際に就職後にどのような意味を持ってくるのだろうか。 株式会社ディスコが2021年3月に発表した「入社1年目社員のキャリア満足度調査」によれば、新卒者の配属先の決定時期は61.1%が「入社後」となっており、一方、「内定承諾までに」配属先が決まっている企業が10.4%、「内定承諾後、入社前まで」が26.5%であり、新卒者の半数以上が配属先は入社後に決定していることが分かる。 このことは、日本企業における新卒者採用の位置づけが未だ長期勤続、ジョブローテーションを前提とした総合職としてキャリア形成させることに基づいていると言えよう。採用・就職活動のスケジュール通り10月1日の内定時には、入社後の職務と直結する配属先は確約せず、4月1日の入社後に、会社の人事戦略に基づいて、配属先を「言い渡される」ことが多くの企業で一般的に行われている慣例といえる。 実際の新卒者の配属先決定時期は約6割で「入社後」ではあるが、配属される主体である新卒者に「望ましい配属先決定時期」を尋ねたところ、「内定承諾前」26.5%、「内定承諾後、入社前までに」25.5%と半数を超える新卒者が、入社前までに、入社後の職務・仕事に直結する配属先を決定していることが望ましいと考えている。 このことは、「自己分析」に伴う、「やりたいこと」「やりたい仕事」を明確化させながら就職活動を進める現在の就活プロセスと無関係ではないだろう。 新卒者の就職活動において一般化されて久しい「自己分析」と、採用する側の人事戦略の間には、選考プロセスにおいても入社後に「言い渡される」職務においても、ギャップを生じさせる罠が潜んでいるのではないか。 新卒者が就活時に深く考えた「やりたいこと」と、入社後の配属先=職務とは、必ずしも直結しない企業が存在するのではないか。 さらにHR総研の調査によれば、従業員のキャリア形成に大きな影響を与える異動(ジョブローテーション)について、「本人の状況・意向は確認せず、(異動)命令には原則として拒否権は無い」企業が16%、「本人の状況・意向は確認するが、原則として(異動の)拒否権は無い」企業が49%となっている。 6割を超える企業で、職務に直結する異動命令は、会社の人事戦略を反映したものとなっている。 新卒者として就職活動を行う際に、一般化された「自己分析」手法を用いて、自身の長期的なキャリアプランを深く検討した上で、志望する企業を絞り込み、4月に入社する。 調査結果から見る日本企業の実際は、変化し続けてはいるものの、現在も多くの企業で会社主導による従業員のキャリア形成が行われているように映る。 自ら望むキャリアプランを描いた新卒者が、実際にその望む「やりたいこと」を叶えるためには、新卒者自身も、そして会社も何らかの変革が求められるのかもしれない。 【引用・参考文献】 ・「入社1年目社員のキャリア満足度調査」株式会社ディスコ(2021) ・「異動、転勤に関する実態調査」ProFuture株式会社/HR総研(2021) ・「就職・採用活動に関する要請」内閣官房(2021) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「やりたいこと」は社会を揺るがす程の衝撃によって明確化される可能性も

2011年3月11日、大地震の発生に引き続いて、非常に広範囲に及ぶ津波の襲来、原子力発電所の事故、大規模停電、断水、社会インフラの断絶…、東日本大震災は多くの国民に衝撃を与えた。 未曽有の災害は、人々の「生きること」への考え方をも変えてしまう程のインパクトがあった。 2011年9月~10月に掛けて社団法人全国高等学校PTA連合会ならびに株式会社リクルートが行った「高校生と保護者の進路に関する意識調査」では、高校生の東日本大震災の発生以前と発生以後で、進路や将来の考え方に変化が見られるかについて明らかにしている。 東日本大震災の発生以前、調査対象の高校生の中で進路や将来の考え方で最も多かった回答は「資格を取得したり、手に職をつけたい」で75%、次いで「社会に役立つ知識・技術を身につけたい」69%、「人の役に立つ仕事に就きたい」68%、「毎日を大切に生きていきたい」68%であった。 そして、東日本大震災の発生以後は、「毎日を大切に生きいきたい」が84%で最も多い回答となった。「やりたいこと」≒「職業観」についても、「人の役に立つ仕事に就きたい」が74%と、発生以前と比べて6ポイントの増加となった。「社会に役立つ知識・技術を身につけたい」も75%となり、発生以前と比べて5ポイントの増加となった。 東日本大震災という大災害を経験した高校生の中で、就職する際の「やりたいこと」の軸が「人の役に立つ仕事」に定めた若者は少なくないと言えよう。 社会を揺るがす程のインパクトの大きな出来事が、若者の「やりたいこと」の明確化に寄与することが示唆される。 新卒者の就職活動において「やりたいこと」の明確化で躓く学生は少なくない。 東日本大震災のような100年の1度の災害を不幸にも経験したことで、「人の役に立つ仕事」という「やりたいこと」の軸が明確化される場合もある。 願わくば、不幸な災害の経験ではなく、若者の主体的な行動の結果、「やりたいこと」の軸が深化されることを期待したい。 【引用・参考文献】 ・「第5回 高校生と保護者の進路に関する意識調査結果報告」社団法人全国高等学校PTA連合会・株式会社リクルート(2012) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「大人」が希望を抱くことから始めよう—日本財団「18歳意識調査」から

日本財団が2019年11月に公表した第20回「18歳意識調査」のテーマは「国や社会に対する意識」(9ヵ国調査)。 この「18歳意識調査」は2019年9月下旬から10月上旬に掛けて日本、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツの9ヵ国の17~19歳の男女、1,000人を対象として、国や社会に対する意識をインターネットを通じ調査したもの。 本調査に回答した17~19歳の中で大学に進学した若者は、あと数年で新卒者として就職活動時期を迎えることとなる。大学を卒業して何らかの組織に所属することだけが「社会に出る」という行為とは限らないものの、多く若者が「社会に出る」ことを、何らかの組織に所属し働くことと認識していることは概ね正しいと言えるだろう。 それゆえに、これから「社会に出る」若者の「(国や)社会に対する意識」は、若者を雇用する・受け入れる企業や組織にとって重要と言えよう。 本調査で明らかとされたのは、日本における18歳が調査対象9か国中、国や社会に対する意識が極端に低いことであった。 学校から社会への移行の点から着目すべき項目としては、 「将来の夢を持っている」日本が最も低く60.1%、次いで韓国が82.2%、残りの7ヵ国は全て90%を超えている。 「自分を大人だと思う」日本が最も低く29.1%、次いで韓国が49.1%、そしてベトナムが65.3%であり、残りの6か国は全て70%を超えている。 「自分で国や社会を変えられると思う」日本が最も低く18.3%、次いで韓国が39.6%、そしてドイツが45.9%であった。 「自分の国の将来について」、「悪くなる」と最も多く回答したのがイギリスで43.4%、次いで日本が37.9%であった。 「自分の国の将来について」、「悪くなる」と回答した割合が最も高かったイギリスではあるが、一方で「良くなる」と回答した割合は25.3と、日本の「良くなる」と回答した割合9.6%に比較すると15.7ポイント、「良くなる」と回答した割合が高かった。 「自分の国の将来について」、「良くなる」と回答した割合が最も低かったのは日本で9.6%、次に低かったドイツが21.1%であったことからも、日本の18歳が調査対象国で極端に自国の将来について悲観的に見ていることが分かる。 「どのようにして国の役にたちたいか」、「国の役には立ちたいとは思わない」と回答した割合が最も高ったのが日本で14.2%。 あと数年で本調査に回答した当時の18歳が就職活動を経て、社会に出てくる。 あと数年ではあるが、既に社会に出ている「大人」が少しでも将来に対して希望を抱いてはどうだろうか。 あと数年後に社会に出てきた当時の18歳に、「それほど社会も悪くはないかもしれない」と思わせることは本当に出来ないことだろうか。 一人ひとりの希望の光は小さくとも、小さな光が集まれば、周りの人々を少しは明るく出来ることもあるのではないだろうか。 【引用・参考文献】 ・「18歳意識調査 第20回—社会や国に対する意識調査」日本財団(2019) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

20年間で学生数が増えた学部、減少した学部~日本の将来の人財像

2020年度の「学校基本調査」によれば、大学学部生の人数が2,623,572人と過去最多の人数となった。同年度の18歳人口が116万7,348人であり、内533,140人が大学(学部)に進学、進学率は54.4%となり、過去最高の進学率となった。 18歳人口は減少し続けている一方で、過去最高となった大学生の人数および進学率ではあるが、過去20年間でどの分野の学生数が増え、また減少したのか。将来のわが国を支える人財が大学でどのような分野、専門領域を学んでいるかを見てみよう。 今から20年前、2000年度の「学校基本調査」によれば、同年度の大学学部生の人数は2,471,755人であり、2020年度は2,623,572人であったことから、わが国では20年間で151,817人大学生が増加していることになる。 2000年度から学生数が増加している学部は、「保健」であり2000年度143,637人から2020年度339,048人と約6割学生数が増加している。「保健」の中でも学生数が増加しているのは「その他」に分類される領域であり、その領域には、栄養学、衛生学、臨床心理学、スポーツ医療学といったものが含まれる。QOLを高める専門知識を学ぶ「保健」分野の学生が20年間で増加したことが分かる。 一方で学生数が減少した学部は「工学」であり、2000年度467,162人から2020年度382,341人と20年間で約2割減少している。「工学」の中でも、電気通信工学、知能情報システム、コンピュータ科学、ソフトウェア開発工学、ネットワークデザイン学等が含まれる「電気通信工学関係」の学生が2000年度149,620人であったものが2020年度106,412人と約4割減少している。 現在、時代の変革を表す言葉として「DX(Digital Transformation)」があげられる。日本経済団体連合会の定義では、DX=デジタルトランスフォーメーションは、「デジタル技術を用いた単純な改善・省人化・自動化・効率化・最適化にはとどまらない。社会の根本的な変化に対して、時に既成概念の破壊を伴いながら新たな価値を創出するための改革がDX。デジタル技術とデータの活用が進むことによって、社会・産業・生活のあり方が根本から革命的に変わること。また、その革新に向けて産業・組織・個人が大転換を図ること」とされる。デジタル技術とデータの活用を進め、産業・組織・個人が大転換を図ることが今、正に進行しているといえる。 単純な学生数の上では、変革を担うデジタル技術を学ぶ工学系の学生はこの20年間で大きく減少している。 【引用・参考文献】 ・「学校基本調査—令和2年度 結果の概要—」文部科学省(2020) ・「学校基本調査—平成12年度結果の概要」文部科学省(2000) ・「Digital Transformation (DX)~価値の協創で未来をひらく~」一般社団法人日本経済団体連合会(2020) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

世界大学ランキング—世界トップ大学と日本トップ大学

イギリスの教育専門誌「Times Higher Education」は9月2日、2022年版「THE世界大学ランキング」を発表した。 「THE世界大学ランキング2022」では、世界の99カ国・地域の1662大学を「教育(学習環境)」「研究」「被引用論文(研究の影響力)」「国際性(職員、学生、研究)」「産業界からの収入(知識移転)」※の5つの分野について、13の指標でスコアを算出し、ランク付けしている。 「THE世界大学ランキング2022」においてトップとなったのはオックスフォード大学であり、6年連続の第1位となった。世界のトップ10の大学は、第1位のオックスフォード大学、第5位のケンブリッジ大学の2大学がイギリス、第2位のカリフォルニア工科大学、ハーバード大学、第4位のスタンフォード大学、5位タイのマサチューセッツ工科大学に続き、プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校、イェール大学、シカゴ大学の8大学がアメリカであり、世界のトップ10をイギリスとアメリカが占める結果となった。 日本の大学としては、東京大学が35位、京都大学が61位、東北大学201-250位、大阪大学と東京工業大学301-350位、名古屋大学351-400位となった。私立大学では産業医科大学が401-500位でトップとなり、慶應義塾大学、関西医科大学、日本医科大学が601-800位となった。 アジアの大学としては、北京大学と精華大学が16位でアジアトップとなり、シンガポール国立大学21位、香港大学30位、香港中文大学49位、ソウル大学54位となった。 2022年版と同様の指標で調査した2016年版では、東京大学は39位、京都大学は91位であったことから、6年間で日本のトップ2大学は世界ランキングにおいて順位を上げ続けていると言える。 評価指標である5つの分野(「教育(学習環境)」「研究」「被引用論文(研究の影響力)」「国際性(職員、学生、研究)」「産業界からの収入(知識移転)」)、13の指標から算出した総合点を見てみると、日本トップの東京大学、2022年版では76.0、2016年版では74.1であったことからも、着実に水準を上げていることが分かる。 ちなみに、世界トップのオックスフォード大学は2022年版では95.7、2016年版では95.0であり、日本のトップとの差は20ポイント程となっている。 日本トップの東京大学の2022年版の総合スコアは76.0、この点数を5つの分野別を見てみると、「教育(学習環境)」86.9、「研究」90.3、「産業界からの収入」88.1と、この3分野のスコアは非常に高い一方で、「被引用論文(研究の影響力)」58.2、「国際性」42.0のスコアが低迷している。 日本第2位の京都大学も「教育(学習環境)」78.5、「研究」78.9、「産業界からの収入」80.8と、この3分野のスコアは高く、「被引用論文(研究の影響力)」58.3、「国際性」38.2のスコアが低い。 ちなみに、「国際性」の指標は「外国籍留学生の割合」、「外国籍教員の割合」、「国際共同研究」から成る。 今後の中長期的な国際競争力の源泉となる若い人材、その人材を育成する日本の大学の世界での立ち位置は気になるところ。 THE世界大学ランキングにおいては、日本のトップ大学が評価指標の中では「国際性」のスコアが低調なことが分かった。 日本も戦略的に大学教育を革新し続けている。 来年のランキングが今から楽しみである。 ※各分野・指標の比重は以下の通り。 「教育(教育環境)」30% ・評判調査<教育> 15% ・学生に対する教員比率 4.5% ・学士課程学生に対する博士課程学生比率 2.25% ・教員に対する博士号取得者比率 6% ・大学の総収入 2.25% 「研究(量、収入、評判)」30% ・評判調査<研究> 18% ・研究関連収入 6% ・学術生産性 6% 「被引用論文(研究影響力)」30% 「国際性(教員、学生、研究)」7.5% ・外国籍留学生の割合 2.5% ・外国籍教員の割合 2.5% ・国際共同研究 2.5% 「産業界からの収入(知の移転)」2.5% 【引用・参考文献】 ・「THE世界大学ランキング 日本版」 ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

みな心では「コーリング」=「天職」を求めている。

新卒就活生の多くが悩む「やりたいこと」。 社会に出て、働く際に、自分は何が「やりたい」のか。これを明確に言える学生はそう多くはないのではないか。 新卒就活生が語る「やりたいこと」の中には、仕事そのものではなく、会社の事業内容が含まれていることもある。 例えば、「私が『やりたいことは』エンターテイメントコンテンツの作成に携わることです」、といった新卒就活生の「やりたいこと」の言説には、成し遂げたい仕事そのものへの言及がなされていない。 エンターテイメントコンテンツ作成会社に入社した後に、会社から割り振られた仕事を行います、といった意識が垣間見れる「やりたいこと」の言説と言える。 ただ当初はこのような「やりたいこと」が、会社の事業内容を示していたとしても、「対話」を続ける中で、エンターテイメントコンテンツ制作会社が社会に対して提供している価値を「娯楽」であると定義し、さらに「娯楽」が持つ効用を人々の人生に一時の潤いを与えること、と定めた後に「やりたいこと」を再度言葉にしたところ、「『やりたいこと』はエンターテイメントコンテンツを世界の多くの人々に楽しんでもらい、幸せな時間を増やすため、作品を多くの人に届ける広報の仕事を行うことです」と、仕事そのものが持つ価値にフォーカスし始めることも多い。 新卒就活生の「やりたいこと」、深めていった先には、シンプルに「人に楽しんでもらいたい」とか「人の役に立ちたい」といった、意義ある仕事に携わることを望んでいることに気がつかされる。 アメリカの社会学者ロバート・N・ベラーは著書「心の習慣」において、「仕事」の概念を3つの類型で説明している。 ①「ジョブ(職)」 仕事とは金を稼いで生活を立てるための手段。 ②「キャリア(経歴)」 仕事とは職務上の功績や昇進によって前進していく生涯の経過を示すものとなる。 ③「コーリング(召命・天職)」 仕事とはある人の活動と性格に具体的理想を与えるものであり、このとき仕事はその人の生活の道徳的意味から切り離せないものとなる。 新卒就活生も、まずイメージするのは、仕事とは金を稼いで生活を立てるための手段であるジョブ(職)、自己分析を行うことで、仕事とは職務上の功績や昇進によって前進していく生涯の経過を示すものとなるキャリア(経歴)を明らかにしていく。 キャリア(経歴)の先にある、仕事とはある人の活動と性格に具体的理想を与えるものであり、このとき仕事はその人の生活の道徳的意味から切り離せないものとなるコーリング(召命・天職)を、社会に出る前の新卒者が明確することは非常に困難な過程と言える。 みな社会に出て自分にとっても、他社にとっても意義ある仕事を望んでいる。 ただ意義ある仕事とは何で、どうすれば辿り着けるかを、一人で解き明かしていくことは難しい。 ここに他者(カウンセラー)との「対話」を通じた深化が求められると言える。 【引用・参考文献】 ・「心の習慣」ロバート・N・ベラー(1991年) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「具体的な仕事内容」を企業は「伝えている」でも学生が「知れた」のは半数以下…?

株式会社リクルートキャリアの研究機関・就職みらい研究所は、2021年新卒者の就職活動の実態について調査し、「就職白書2021」を公表した。 同白書において注目すべき調査結果は、企業が学生に提供している情報と学生が就職活動で知りたいと思っていたもの/知ることができたもの、との乖離である。 同調査では、企業が学生に提供している情報と学生が就職活動で知りたいと思っていたもの、とは多くの項目について乖離が認められるが、特筆すべき乖離は「具体的な仕事内容」である。 「具体的な仕事内容」については、87.1%の企業が学生に提供していると回答している一方で、学生は43.7%が知ることができたと回答しており、実に学生の半数以上は志望する企業の「具体的な仕事内容」について、「知ることが出来なかった」と認識していたことになる。 企業が情報を提供している割合(87.1%)から学生が知ることが出来た割合(43.7%)を差し引くと、43.4ポイントもの乖離となる。 さらに「具体的な仕事内容」については、57.9%の学生が就職活動で知りたいと思っていながら、前述のとおり知ることができたと回答した学生は43.7%に留まっている。 この乖離の原因については公表されている調査結果から推論することは難しいが、学生が求めている「具体的な仕事内容」の情報量もしくは質と、企業が提供している情報に隔たりがあることは確かだろう。 そして、「具体的な仕事内容」について少なくとも半数以上の学生が「知ることが出来なかった」と振り返っていることは、ここにも新卒者の就職活動を悩ます大きな要因があると考えられよう。 新卒者の就職活動について多くの学生が「自己分析」を取り入れている。そして、自己分析のオーソドックな手法においては、「やりたいこと」と「志望動機」を明らかにすることを求めることが多い。 自己分析における「やりたいこと」は、過去の経歴から推し測り、志望する企業において達成できそうかについて検討する。「やりたいこと」の中心となるものは、志望企業においての「仕事」に他ならない。 また自己分析における「志望動機」についても、志望企業の理念であったり、社会への貢献度合いであったり、というケースはあるものの、企業の選考プロセスにおいて用いられる志望動機は、学生が志望企業において成し遂げたい「仕事」を全て除外して考えるということは非常に稀なケースだろう。「志望動機」についても、志望企業での「仕事」を捨象して考えることはできないと言えよう。 真剣に大学卒業の就職先、仕事について考えればこそ、自己分析で自己を深く探り、学生時代における一つの「自己」というものを仮であったとしても確立させ、就職活動に臨む。 学生時代の仮ではあるものの「やりたいこと」を定め、志望する企業を絞り込み、選考プロセスに進む中で、約半数の学生は、「具体的な仕事内容」を「知ることはできなかった」と振り返っている。 ここに新卒就活生を悩ませる要因の一つを見ることができる。 87.1%の企業が「具体的な仕事内容」について学生に提供していると考えている。一方、学生が「具体的な仕事内容」を知ることができたのは43.7%に留まる。 このことは乖離は、学生の自己分析における「やりたいこと」と「志望動機」に大きく関連してくるため、今後の課題と言えよう。 真剣に自己の将来を考える学生ほど、この乖離の狭間で苦しむことがなくなるように。 【引用・参考文献】 ・「就職活動・採用活動に関する振り返り調査 データ集」 株式会社リクルートキャリア(2021年) ・「就職白書2021 」株式会社リクルートキャリア (2021年) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

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