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就活準備から内定or不採用まで
「自己分析」で明らかにした「望む『労働条件』」に囚われ、6月時点で「内定」ゼロでも就職活動を再開できなくなってしまったケース
※以下のエピソードは新卒就活生が陥った悩みとカウンセラーによるカウンセリングケースです。エピソードは個人が特定されないように加工を加えております。カウンセリングケースはカウンセラーの個人的な見解によるものです。 【P大学・国際学部所属・4年生】 ここ数年間、新卒者の「売り手市場」と世間では言われておりましたが、私は「しっかり」とした企業に新卒者として入社して、安定した生活を送ることを期待し、大学3年生になった時から夏休みに就職活動でも「第一志望」と心に決めた企業に「インターンシップ」に行くなど、「準備」を怠らず、就職活動の本番を迎えました。「第一志望」と心に決めていた企業は3月中に「不採用」となってしまいましたが、「しっかり」とした企業、つまり大手企業と呼ばれている会社にエントリーし続けました。結果的には、私に届いた「知らせ」は全て「第一志望」と決めていた企業と同様に「不採用」でした。気がつけば、多くの採用企業で「選考」を終えてしまっている6月になってしまいました。どうしてこうなってしまったのか、自分では分かりません。「内定」を一つも獲得できない焦燥感と不安で気持ちを保っていられません。 📅大学3年次の4月<就職活動準備~就職活動開始から0カ月> 近年、新卒者の就職活動は(新卒者の)「売り手市場」だと言われており、サークルの先輩達からも「就職活動を始めて直ぐに『内定』がでた」とか「複数の『内定先』からどの企業に選ぼうか迷っている」といった(新卒者の)「売り手市場」を裏付けるような話を聞いていました。それでも私は不安症な性格のため、大学3年生になった瞬間から「就職活動」に向けて準備を始めました。 まず行ったのは「自己分析」で自分の「望む」キャリアを考えること。 大学3年生になって直ぐに取り組んだのは「自己分析」でした。「就活本」を1冊購入し、そこに書かれていた「自己分析」のフローチャートに則って、自分の「望む」キャリア形成を明らかにしていきました。「自己分析」によって明らかにした私の「やりたいこと」、「やりたい仕事」は、「日本と世界を繋ぐ仕事」でした。この「やりたいこと」「やりたい仕事」は、大学で専攻している「国際関係論」で学んだ日本と世界との貿易のみならず、国際協力にも興味を持ったことから導き出しました。次に「自己分析」で明らかにしたことは、進みたい「業界」「業種」でした。進みたい「業界」「業種」は、「やりたいこと」「やりたい仕事」が「日本と世界を繋ぐ仕事」から考え、「商社」に定めました。そして、「望むキャリア・働き方」については、親が公務員だった影響もあってか、「安定した会社」で「安定した仕事」を新入社員から定年まで行いたい、と考えていることが明確になりました。また、本音を言えば、転勤はせず、都内のマンションを購入し、そこで生活をし続け、同期や後輩達との「競争」はしたくない、ということも「望み」でした。「人並み」よりちょっと多いくらいの給与は欲しいですが、かと言って「管理職になりたい」といった望みはなく、従業員同士で「競争」して「勝ちたい」とも思っていません。社会人になっても「私生活」を優先したいと思っていましたので「長時間労働」「長時間の残業」、「休日日数が少ない」「有給休暇の取得率が低い」ような企業には絶対に行きたくない、と思ってます。このような私の「望むキャリア・働き方」に合致する会社は、都内に本社を構える、社歴の長い、大手企業であることが見えてきました。今こうやって振り返ってみますと、私が就職活動でエントリーし続けていた会社は、「自己分析」で(一度は)定めた「やりたいこと」=「日本と世界を繋ぐ仕事」は完全に抜け落ちてしまっていて、重要視していたことは「賃金」や「労働時間」といった「労働条件」だったことに気づかされます。 📅大学3年次の8月<就職活動準備~就職活動開始から4カ月> 大学3年生になって直ぐに取り組んだ「自己分析」によって明らかにしました「望むキャリア・働き方」を実現させるため、7月に「インターンシップ」のエントリーを行いました。 インターンシップ実習先は「望む働き方」から「大手企業」に。 私がエントリーしたインターンシップ先は、私が「望む働き方」ができそうな都内に本社を構え、社歴が長い、大手企業でした。大手企業ばかり7社ほどエントリーして、インターンシップの受入れが「通った」のは1社だけでした。エントリーした際は「エントリーした7社の中でどの会社に実習に行こうか」と思っていましたが、「残念ながら…」というメールばかりが届き、少し焦りました。「インターンシップから選考が始まっている」とも聞いておりましたので、気を緩ませず、5日間の実習をこなしました。インターンシップの実習そのものは、とても楽しいものでした。インターンシップに伺った大手企業である食品メーカーのA社の本社はとてもキレイで、インターンシップを担当された社員さんの姿も明るく活動的で、私はインターンシップ実習先であるA社を就職先の「第一志望」にしようと決めました。今思えば、私はインターンシップ受入企業からすれば「お客さん」扱いしなければならない「学生」でしたので、会社のキレイな部分だけを、丁寧な説明で見せてもらった、ということだったのでしょう。インターンシップを担当された方の「配慮」があったからこそ、私も「この担当者、この会社から『気に入られた』」と勝手に思い込んでしまっていたことに、就職活動でA社を受けた後で気づかされました。インターンシップの「実習生」を見る担当者の視点と、新卒者の採用選考にエントリーしている「候補者」を見る採用担当者の視点とは、異なっていたのだと後から気づかされました。 📅大学3年次の3月<就職活動準備~就職活動開始から11カ月> 3月1日から本格的に開始された合同企業説明会では、大手企業を中心に数十社の説明を聞いて回りました。 大手企業の「賃金」「労働時間」「休日」はどこも魅力的に映る。 大学3年生の春に行った「自己分析」では、「やりたいこと」「やりたい仕事」を「日本と世界を繋ぐ仕事」と見出しましたが、会社説明会がいざ始まってみますと、「興味を惹かれる」会社は大手企業ばかりで、その大手企業の会社説明の中でもとくに集中して聞いていたことは「賃金」、「労働時間」「休日日数」といった「労働条件」でした。数十社の会社説明を聞きましたが、大手企業と呼ばれている会社の「労働条件」は、やはり魅力的に映りました。「コンプライアンス」=法令順守の取り組みも徹底している、との説明をされる企業も多く、その点も大手企業で「働きたい」と思わせる一つの要因となりました。今振り返りますと、「就活本」に従って「やりたいこと」「やりたい仕事」を考え出してはみたものの、もっと自分の心の奥深くを「分析」し、心の底にある「本心」を怖がらずにオモテに出せていたら、「本当は『やりたいこと』『やりたい仕事』などは『無くて』、人並みよりも少し高い給与をもらい、他と比べて労働時間は短くて、さほど『厳しくない仕事』をしたい」ということが「望む働き方・望むキャリア」だったように思います。 「労働条件」が魅力的な大手企業を中心に30社程にエントリー 合同企業説明会では大手企業のブースを中心に訪問していましたが、海外との貿易を行っている中規模の「商社」の会社説明も聞いてみたところ、大手企業と「労働条件」を比較してみると、より大手企業の「良さ」が際立って見えました。「やりたいこと」「やりたい仕事」は会社選びで重視するポイントからは後退し、(好ましい)「労働条件」が会社選びの基準となっていました。3月中に30社程の「大手企業」にエントリーをしました。とくに、夏にインターンシップを経験した企業は「第一志望」と心に決めて、真っ先にエントリーをしました。3月時点では、心のどこかで、夏にインターンシップに伺った企業に「内定」を貰えるのではないか、と思っていました。自分ではインターンシップ実習中に十分に「自己PR」も出来たと思っていましたし、インターンシップ担当者からも高評価を得られた、と勝手ながら思っていました。30社程にエントリーし、順調に選考が進めば4月中には「内定」がもらえるのではないか、また「第一志望」の会社から「内定」をもらえればそこで就職活動を終えても良いが、「第一志望」以外の会社から「内定」をもらっても2~3社から「内定」をもらうまで就職活動を続けよう、とも思っていました。就職活動の第一段階、エントリーシートは大学3年生の早い段階から「自己分析」「業界研究」に取り組んでいたため、比較的悩まずに執筆することができ、本格的な採用選考の開始を待ちました。 📅大学4年次の4月<就職活動準備~就職活動開始から12カ月> エントリーをしました約30社の中で、早いところでは3月中にエントリーシートの結果が届き、筆記試験、適性検査、グループ面接といった、2段階目の選考プロセスに呼ばれ始めました。 「第一次面接」に呼ばれた企業は30社中❝僅か❞7社。焦りが出始める。 「労働条件」の良さに惹かれ大手企業を中心に約30社ほどエントリーをしまして、おおよそ半数の15社ほどから筆記試験、適性検査、グループ面接に呼ばれました。エントリーシートに「合格」し、筆記試験、適性検査、グループ面談といった2段階目の選考プロセスも突破できたのは、さらに半数の7社でした。この時点で、少し焦りが出始めました。先輩や周囲からの「売り手市場だから」という言葉を完全に信じていた訳ではありませんが、心のどこかで「安心」してしまっていたのかもしれません。「売り手市場だから」私も「内定」はもらえるだろう。もし複数社から「内定」がもらえたら、どのような基準で選ぼうか。といったことまで就職活動を始める前には考えていました。ところが…、実際に3月から就職活動の本格的に開始し、約30社にエントリーし、約半数のエントリー企業から次の選考プロセスに呼ばれ、(別な言い方をすれば、半数のエントリー企業からはエントリーシートの段階で「不採用」となり)筆記試験、適性検査、グループ面接など受け、さらに半数の7社から「合格」を頂き、「一次面接」に進みましたが、就活前に考えていたイメージよりかなり「厳しさ」を感じました。正直、心の中では、エントリーした30社の中でエントリーシートで「はじかれる」のは数社だろう、と考えていました。そして、エントリーシート、筆記試験などを「合格」して、「一次面接」には20社ほどから呼ばれるだろう、とも思っていました。現実は、約30社エントリーして、「一次面接」に進めたのは7社でした。私の就活前のイメージからすれば「一次面接」に進めたのは、「僅か」7社という思いでした。そして、3年次の夏にインターンシップに行き、「第一志望」と決めていた会社は、筆記試験、グループ面接の時点で「不採用」になってしまいました。とてもショックでした。インターンシップと採用は「直結」しているという噂は、私には当てはまりませんでした。4月は、とにかく「一次面接」に「呼んでもらえた」企業を大事にしていこう、と気持ちを入れ替えた時期でもあります。就職活動前の「売り手市場だから」という考えは一切なくなりました。 📅大学4年次の5月<就職活動準備~就職活動開始から13カ月> 30社エントリーして、「一次面接」に進めたのは僅か7社。この7社の中から何とか「内定」をもらうため、面接に備えました。 「一次面接」に進めたのは7社、そして「二次面接」に進めたのは「0社」。 3月から合同企業説明会に参加し、そのまま30社ほどにエントリーして、筆記試験等を経て「一次面接」に進めたのは僅か7社でした。それでも「一次面接」に呼んでもらえた7社は、いずれも「労働条件」が良い大手企業でした。なんとか「内定」をもらうため、面接に備えました。ただ真剣に「一次面接」に進めた企業の面接準備を行えば行う程、面接で問われることの多い、「志望動機」や「10年後のキャリアについての展望」といった質問の答えに詰まってしまうことに気づきました。例えば、「なぜ当社を志望されたのですか?」の質問に対して、「日本と世界を繋ぐ仕事をしたいと考え、海外との貿易を行っている御社を志望しました」と答えたとして、「会社と貿易を行っている企業は数多くありますが、その中でなぜ当社を志望されたのですか?」、といったように「なぜ」「なぜ」と問いを深掘りされた場合、「自己分析」をしっかりとしていた❝つもり❞で❝なんとなく❞決めた「やりたいこと」、「やりたい仕事」からは、面接担当者から「評価」されそうな答えを見つけ出すことは出来ませんでした。「10年後のキャリアについての展望」の問いに対する答えについても、本心では都内で、転勤もせず、夜遅くまで残業することなく、安定して働きたい、としか考えておりませんでしたので、やはり面接担当者から「加点」されるような答えを見出すことは出来ませんでした。就職活動で重視と考えられている「志望動機」=「やりたいこと」と「キャリア形成の展望」の両方にとても不安を抱えておりましたが、いくら悩み、考えても、「やりたいこと」は、何となく大学進学の際に選択した国際学部から、「ガクチ力」とも整合性を取るために考えついた「日本と世界を繋ぐ仕事」に辿り着くことはできても、ここからさらに「では具体的ではどのような仕事をしたいと考えておりますか」とか、「あなたのやりたいことに関連させて将来の夢はありますか」といった深掘りした「思い」には辿り着けないまま、「第一次面接」が始まってしまいました。エントリーした企業の中で7社の「一次面接」に呼ばれましたが、1社目の「一次面接」で、面接前からとても不安に思っていました「志望動機」と「キャリア形成の展望」の「弱さ」が出てしまいました。「なぜ当社を志望されたのですか」「具体的には、当社のどのような事業展開に興味を持たれたのですか」「具体的には、どのような仕事をされたいと考えておられますか」「これまで学ばれてきたこと、培われてきた経験などを、どのように当社で発揮されたいか、展望があればお聞かせ下さい」…。予め「一次面接」に向けて準備してきた「セリフ」を❝発声❞した後にきまって、「具体的に詳しくお話頂けますか…」「今のこの点についてもう少し詳しくお話頂けますか…」といったように「セリフ」として用意してきた回答に対して、「深さ」を求めてくる「なぜ?なぜ?」の質問には、まともに答えることができず、ただただ自分の考えの甘さを痛感する時間が続きました。「大手企業」と呼ばれる企業には、本当に多くの新卒者がエントリーし、多くの応募者の中から数人を「選ぶ」ということは、私のような「労働条件が良いから」とか「賃金が高いから」といった志望動機「だけ」では直ぐに見透かされてしまう、ということが分かってきました。5月中に「一次面接」に呼ばれた7社の面接はすべて終わり、結果は「全滅」でした。「二次面接」に進めた会社は「0社」という結果を迎えてしまいました。 📅大学4年次の6月<就職活動準備~就職活動開始から14カ月> 大学3年次の頃から漠然と就職するなら「労働条件」が良い大手企業と決めて、インターンシップも大手企業で経験し、本格的に就職活動がスタートしてからも大手企業ばかり約30社にエントリーを行い、選考に臨んだ結果、5月には「内定」ゼロ、エントリーしている企業もゼロとなっていました。 一度心に決めた「志望」を変えることが出来ない難しさ。 大学3年次の早い段階で「自己分析」を行い、自分は、自分に正直になり、給与水準は人並みより少し多く、残業はあまりしたくなく、休日はしっかり確保されていて、転勤もせずに、コンプライアンス(法令遵守)もしっかりしている大手企業で「働きたい」と考えていることを明らかにしていました。大手企業に就職するためにインターンシップも行い、しっかりと準備していたつもりでした。そして、何とか「一次面接」まで辿り着いた大手企業での実際の「面接」では、「労働条件が良い」とか、「賃金が良い」といった「志望動機」だけでは、「突破」できないことを思い知らされました。多くの新卒就活生の中から「選ぶ」側としては、「働く環境」の良さだけに魅力を感じている人材よりも、もっと深いところで「このような仕事がしたい」とか「このように会社を通じて社会と関係を築いていきたい」といった「働く意欲・意識」が高い人材を選ぶのだと感じました。すべてのエントリーした企業で「不採用」となって、ようやく自分の甘さを痛感しました。ですが、3年次に「自己分析」で明確にした「望む働き方」には嘘はありません。私は「会社に入って○○○のような仕事をしたい」よりも、ほどほどに働いて、安定した生活をしたいということが「望み」なのです。正直「働くこと」に対して、とくに「望み」はありません。夜遅くまで仕事をすることなく、賃金も人並みより少し多くもらえて、休みも取れて、ハラスメントがない会社であれば、どこでも良いと思っています。私の「望む働き方」ができそうなのが大手企業と思ったのです。今は気がつけば6月です。私が望む「働き方」ができそうな大手企業の求人は、もう既に「本年度の募集は終了しました」と表示されてしまっています。1年以上も「自己分析」で明らかにした「望む働き方」を追ってきたためか、今から自分の気持ちに嘘をついて「望む働き方」を変えることが難しそうです。新たに選考に進むためにエントリーをし直さなければならないのですが、どうしても心が動きません。同級生は次々に「内定」を獲得しているようです。私は焦る気持ちだけが日増しに大きくなりますが、反面、「ここで働きたい」とか「このような仕事をしたい」という前向きな気持ちはゼロに近く、再びエントリーを行い、就職活動に臨むことができなくなってしまっています。就職活動を再開しなければならいこと、来春の卒業と同時に働かなければならないこと、は理解していますが、どうしても心が動きません。どうしたらよいでしょうか。 【カウンセラー 工藤未来】ThirdPlaceキャリアマネジメント代表。大学院修了後、労働問題を主な研究領域とする団体・研究機関に入所する。 入所後、若年者の就職問題・キャリア形成の問題をテーマとする活動・研究を行う。 活動・研究活動を行う中で、多くの働く人からの「何のために働くのか」の問いや悩みをきっかけとして、「答え」を示すのではなく、働く人ひとり一人が「考える」ためのヒントを提供することを始める。 「労働条件」から「会社を選ぶ」ことは決して間違いではない。 ご相談者は「労働条件」の良さから大手企業への入社を希望され、3年次夏のインターンシップから志望する大手企業に赴き、「準備」されていたにも拘わらず、6月時点で「内定」を獲得できずに、今後どのように就職活動を進めれば良いか迷われていたケースでした。「内定」を獲得できずに、今後どのように就職活動を進めれば良いのか迷われる大きな原因となったのが、3年次の春から行っていた「自己分析」において、偽りなく自己と向き合った結果、給与水準は平均以上で、労働時間は短く、休日はしっかりと確保されており、転勤もなく、安定した生活をしたいため、その「望む働き方」を叶えるために大手企業に就職したい、という考えに行き着かれましたが、就職活動において「内定」を得ることが出来なかったことに求められます。ご相談者も取り組まれた「自己分析」の多くは、「望む働き方」に関して、「やりたいこと」「やりたい仕事」についても分析を進めることを推奨しています。ご相談者も大手企業の「一次面接」の準備段階で、心からの「やりたいこと」「やりたい仕事」は思い浮かばなかったと振り返られています。そして、深い「思い」がなかったことが「不採用」に繋がったと考えられ、悔やまれているご様子でした。まずご相談者にご理解頂いたのは、「労働条件」から「会社を選ぶ」ことは決して間違っていない、ということです。学校を卒業して、会社に入り「働く」のは、これまで親に依存していた学生生活から、自立して生活するためです。生活に欠かすことのできない食料や電気、水、衣服などは、誰かが「働く」ことによって、作られ、自分の下に届けられています。お米を例にしますと、誰かが田んぼを耕し、稲を植え、刈り取り、袋詰めして、届けるという「労働」を行うことで、食卓に並べることができます。お米を手に入れるためには、自分も何かしらの「労働」を行い、お米と同等の「価値」と「交換」しなければなりません。これが「労働」の意味です。誰かが「労働」して、作り出した「価値」を、自分も「労働」して、作り出した「価値」と「交換」して、生活する。このように「労働」「働くこと」を単純化して捉えてみれば、「労働」の対価として得られる「賃金」は多く、欲しい「賃金」を得るための「労働」は短く、「労働」以外の「私生活」を充実するために「休み」は多く、ハラスメントがない職場で「働きたい」、という願いは、否定される理由はどこにもないと考えられます。望む「労働条件」の会社で働き、その上、「やりたいこと」も見つかれば幸運なことだと思います。無理にでも「労働」に「やりたいこと」を見出す必要性は薄いと言っても良いと思います。とくに日本企業の新卒者採用は「職務」で雇い入れるのではなく、「総合職」として雇い入れ、会社の人員構成や必要性に応じて、従業員を配置したり、異動させたりするため、新卒者が就職活動で語った「やりたいこと」「やりたい仕事」に就けるとは限らない問題もあります。このことからも「やりたいこと」「やりたい仕事」が学生時代に思い浮かばなかったとしても、過度に悩む必要はないと考えられます。 「やりたいこと」が不明確「だから」不採用になった、は本当? ご相談が躓かれたと考えられた「深さ」を求められた質問ですが、「やりたいこと」や「やりたい仕事」が不明確だったから「不採用」になったのでしょうか。採用担当者が新卒就活生の回答に対して「深掘り」してくるのは、「事実確認」の意味合いが考えられます。ご相談者も面接前に準備された「セリフ」ですが、その「セリフ」が「事実」なのか「想像」のものなのかによって、入社後の業務遂行に支障をきたすことが考えられます。「やりたいこと」「やりたい仕事」という「思い」や「気持ち」も生産性の観点からは大事ではないとは言えませんが、それよりも新卒就活生がこれまで学んできたこと、経験したことが「事実」であり、入社後に培ってこられた能力を発揮してもらえるかどうかの方が重視されつつあります。ご相談者は答えに困ってしまったという事実は、採用ゲンバでは、「気持ち」の問題として捉えているのではなく、公開されている情報を収集し、自分なりに整理し、論理的に説明できるか、といった「能力」の問題として捉え直すことができます。たとえ、新卒就活生がどんなに素晴らしい「やりたいこと」「やりたい仕事」を語られたとしても、その「仕事」を遂行できる「能力」がなければ、「価値」を生み出すことは叶いません。近年、採用ゲンバでは、「やる気」という「気持ち」よりも、「職務遂行能力」を冷静に見極める傾向が強まっています。このことは若年層の「労働」に対する「価値観」が大きく変わってきたことと関連しています。かつては新卒者として会社に入社した後は、定年まで勤め上げるという一つの理想・キャリアモデルがありました。ですが、近年は新卒者として入社した会社を1~2年で退職し、その後も転職を繰り返しながらキャリアを形成していく若年者も珍しくはなくなってきました。企業としても長期的な視野で人材育成を考えてはいても、とくに若年層に長期勤続を必ずしも望まない傾向が広まるにつれて、短期的な「価値」を求める、つまり短期間に「価値」を生み出せる可能性が高い「職務遂行能力」を重視する方向にシフトせざるを得なくなってきています。ご相談者が躓いた「面接」については、「やりたいこと」という「気持ち」の問題として捉えるのではなく、「職務遂行能力」の問題として捉え直し、開示されている企業「情報」の収集、把握、整理の後、論理的に説明できるようにする、ことをお勧めしました。