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「やりたいこと」

「やりたいこと」を探求するチカラのつけ方②。「学ぶ」人の特徴。

2021年4月1日、改正「高年齢者雇用安定法」が施行され、従業員を雇用する事業主に対し、65歳までの雇用確保義務に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するための努力義務が課せられた。 今回の改正法において、雇用する従業員が70歳まで働くことのできる就業機会を確保するよう「努力」することが義務化されたことにより、働く人にとっては学校卒業後から70歳までの約50年間、「キャリア」が求められるようになった。 日本が長い時間を掛けて培ってきた新卒者一括採用、一律の人材育成プログラム、長期勤続、結果としての終身雇用といった雇用慣行は、雇用側と被雇用者側双方の様々な要因の「変化」により、崩れ去ろうとしている。 被雇用者側、つまり働く人の変化としては「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」34歳以下の若者が約6割に及ぶ。 雇用側、つまり経営者が長期勤続を一律に従業員に提案したとしても、雇用されている従業員側が一つの会社に長期勤続したいと思っていない。 このことは、新卒者として複数名を一括で採用し、社会人をスタートさせる4月から一律に施す人材育成プログラムによって育成し、❝同期❞同士で競い合いながら経営幹部を目指させる、理想的な人事モデルが、従業員側の意識変化を一つの大きな要因として機能不全を起こす可能性を示唆している。 経営側としては、このような理想的な人事モデルが崩れることに対して、必要な人材を獲得するため、従来型の毎年1~2%づつ賃金が上昇していく「年功賃金」から、長期勤続を前提とせず現在の職務遂行能力に対して報酬を支払う「職務給」を採用するなど、自社があらゆる変化に対応し勝ち残っていくため積み重ねてきた人事制度を変革させている。 経営は、勝ち残るために、組織の在り方をも自在に変えていくものと言える。 一例ではあるが、新卒者一括採用、長期勤続、結果として終身雇用等が働く人の意識変化を一つの要因として機能しなくなったことに対して、企業はそれらの「環境変化」を乗り越え、勝ち残るために、企業が「今」必要としている職務遂行能力を備えた人材を採用するため、「年功給」を基準とする水準より高い報酬を提示し、雇用する動きが広がっている。 長期間かけて培われてきた雇用慣行や賃金制度は、短期間で極端に変化することは考え難いが、長期勤続を前提とする雇用制度が揺らぎ続けた先には、勤続年数によって賃金が上昇する現在の賃金慣行から、働く人が有する「現在」の職務遂行能力に対して賃金を提示する、いわゆる「職務給」が日本のスタンダードな賃金慣行に取って代わる可能性も否定し難い。 「職務給」の人事制度の下では、雇用される企業内における職務分担と賃金水準は、従業員の職務遂行能力がベースとなる。 さて、「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」働く人は、生活の糧を得るため、他の雇用先を探すか(転職するか)、自ら業を興すか(起業する)、どちらかを選ばなければならないだろう。 4月1日に施行された改正「高年齢者雇用安定法」によって、65歳から70歳までの就業機会を確保するための努力義務が課せられたことは、近い将来、国が年休支払い年齢を70歳に引き上げる青写真を描いていることは想像に難くない。 働く人にとっては、年金支給年齢を引き上げられることで、結果として70歳まで賃金を得られる仕事を行わなければならないプレッシャーが高まることになる。 崩れつつある新卒者一括採用、一律の人材育成プログラム、長期勤続、結果としての終身雇用等の雇用慣行の中で、働く人は70歳まで賃金が得られる仕事を展望しなければならない時代に移り変わろうとしている。 新たな日本的雇用慣行の照準の一つは、働く人の「現在価値」つまり「今」働く人が有している職務遂行能力に対して、職務や賃金を提示する「職務給」の世界観を見据えているのではないだろうか。 「職務給」の世界観において、働く人が「やりたいこと」の実現、すなわち転職や起業の実現の基礎となるのは、個人が有する職務遂行能力となる。 そして、働く人個々人が有する職務遂行能力の獲得は、これまで日本的雇用慣行のように一律従業員全員に提供される人材育成プログラムではなく、個々人が自ら社外または社内で獲得しなければならないものとなる。 働く人も望んだことを一因として揺らぎ続けている伝統的な日本の雇用慣行は、職務遂行能力の獲得について、入社した会社が提供する人材育成プログラムに期待することが難しくさせ、キャリア形成の大部分を働く人個人が自ら切り拓くことを推し進めようとしている。 自らの意志でキャリアを選び、行動している人の方が、職務遂行能力を自ら高めていることを明らかにした調査がある。 一般財団法人企業活力研究所の「『学び』を支える❝学習習慣❞のある人材の確保・育成に向けた人事戦略に関する調査研究報告書」によれば、働く人の中で自ら「学ぶ」学習慣習がある人は、 ・転職の経験がある人 ・大きく仕事内容が変化した経験がある人 であった。 転職(や転籍)を経験した人の「学習習慣がとてもある」と回答した割合は58.6%であったのに対し、転職(や転籍)の経験がない人の学習習慣は、17.2ポイント低い結果であった(転職経験のない人で「学習習慣がとてもある」と回答したのは41.4%であった。逆に「学習習慣がない」は63.1%だった)。 同じく、大きく仕事内容が変化した経験がある人の「学習習慣がとてもある」割合が58.6%であったのに対し、大きく仕事内容が変化したことのない人の学習習慣は17.2ポイント低くなっている(大きく仕事内容が変化したことのない人で「学習習慣がとてもある」と回答したのは41.4%であった。逆に「学習習慣がない」は60.3%だった)。 この調査からは、変化している働く人の新卒者として入社してからのキャリア形成に関する意識に対応するように、実際に転職を行った人の方が自己のエンプロイアビリティを高めるため、「学び」「学習習慣」を身につけていることが分かった。 働く人の雇用されることに関する意識は変化し続けている。 そして、自ら望むキャリアをデザインするための着実に準備を行う人も増えている。 【引用・参考文献】 ・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018) ・「『学び』を支える❝学習習慣❞のある人材の確保・育成に向けた人事戦略に関する調査研究報告書」一般財団法人企業活力研究所(2019) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「やりたいこと」を探求するチカラのつけ方①。「学ぶ」会社の特徴。

1990年代後半から新卒就活生の就職活動準備に欠かせないツールの一つに、「自己分析」が定着化している。 バルブ経済崩壊後、日本企業は経済過熱期に抱えた多くの「過剰」を正常値に戻すため、「リストラ」の名のもとに企業から❝掃き出し❞を断行した。経済が過熱状態から後退局面となり、企業の生産活動にブレーキを掛けることで生じた過剰人員を、事業再編と称した人員削減=「リストラ」が行われ、多くの企業で大規模に従業員が削減された。 正規従業員の大幅な人員削減が断行される傍らで、1990年代後半に大学卒業を迎えた新卒者の採用枠も厳しく抑制された。新卒者にとっての「就職氷河期」の到来である。 新卒者の「就職氷河期」の到来と時を同じくして、新卒者が大学卒業後にどのような働き方をしたいのか、どのような仕事を望んでいるのか、志望する望む働き方や仕事を実現できそうな会社を自ら選択するように促す、「主体的なキャリア形成」の必要性が言及され始める。 「主体的なキャリア形成」の計画策定のためのツールとして、自己の望みや傾向を、過去の経験から明確化させていく「自己分析」が瞬く間に広く新卒者の間で取り入れられていった。 「自己分析」で自己を分析する際に根幹を成す❝問い❞に、将来「やりたいこと」があげられる。主体性を持ってキャリアを切り拓いていくために不可欠となる「芯」が、将来自分はどうありたいのか、ありたい自分に近づくためにどのようなことを職業上に求めるのか、将来「やりたいこと」とは何か、である。 主体的なキャリア形成を新卒者自らに問う風潮が一般化してから約25年、主体的に「やりたいこと」を追い求めるマインドを持った若年者の多くは、長期勤続を前提とした日本の雇用慣行に抗うように、新卒者として入社した会社に生涯に亘って勤め上げたいとは考えていない。 就職活動を通じて、主体性を持つこと、主体的に働き方・生き方を選ぶことを、求められた結果、長く続く長期勤続の雇用慣行にも拘わらず、数カ月から数年で初職を辞め、転職を繰り返すキャリアを歩む若年者が増えている。 政府が政策として掲げ、各施策を展開してきた若年者の主体的なキャリア形成に向けての取組み。その効果もあり、若年者は主体的に職業、会社を選ぶため、結果として、比較的短期間の内に転職を繰り返すキャリア形成も特異なものではなくなりつつある。 主体的キャリア形成、「やりたいこと」の実現、これらの源泉になるのは、個々人が培った能力である。 企業において求められる個々人の「能力」については、非常に幅広く、一つ一つ言及していくことは難しい。ここでは、転職を伴う企業横断的な主体的なキャリア形成を念頭に置き、勤務時間内に得られる経験や知識に加えて、「やりたいこと」が出来そうな企業に転職する際に不可欠となる、業務経験以外の主体的な「学び」についてフォーカスしたい。 より「やりたいこと」に近づくため、キャリアアップのための転職を含むキャリア形成のためには、所属する企業の業務経験だけでは、他社でも活かすことのできる汎用的な能力を身につけられるとは限らない。「やりたいこと」の実現のための仕事探し、会社探しの選択肢を広げるためにも、業務経験以外の「学び」が重要となる。業務経験に加え、主体的に「学ぶ」ことで、様々な企業で活躍できる能力が培われると考える。 では、主体的に「学び」が行われる会社とは、どのような特徴を持った会社なのだろうか。 言い換えれば、個々人が主体的なキャリア形成のために「学び」易い会社とはどのような会社だろうか。 主体的な働き方、生き方の側面から見た「良い会社」とはどのような特徴があるのだろうか。 一般財団法人企業活力研究所が行った調査結果によれば、自ら「学ぶ」慣習がある人材が所属する会社の職場風土として、 「主体性・自主性を重視する風土」があること、 「人材育成・自己啓発を促進する風土」があること、 「変化対応力を重視する風土」があること、 といった特徴があげられる。 一方で、「成果主義・実力主義を重視する風土」がある会社と、自ら「学ぶ」慣習ある人材との関連は相対的に小さいことが指摘されている。 同報告書では、個々人の「学ぶ」気持ちを高め継続されるためには、人材育成・自己啓発を促進する風土を醸成されていることに加え、個々人の主体性や自主性を引き出すことが大切である、と結論づけている。 個々人の主体性や自主性を引き出すには、職場内にチャレンジする風土が根付いているかの点がカギとなる。 「やりたいこと」の実現・探求、主体的な働き方・生き方の観点から見た「良い会社」とは、 主体性や自主性を重視する風土があること、 主体性や自主性を重視する風土の醸成には、チャレンジすることが許容される会社の雰囲気が重要であること、 このような風土、雰囲気がある職場で、個々人が自ら「学び」続ける会社が、「良い会社」と思う。 主体的な生き方にとっての「良い会社」。 それは「学び」続ける会社だと思う。 【引用・参考文献】 ・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018) ・「『学び』を支える❝学習習慣❞のある人材の確保・育成に向けた人事戦略に関する調査研究報告書」一般財団法人企業活力研究所(2019) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「やりたいこと」は知っている範囲から…?小学生「大人になったらなりたいもの」調査。

第一生命保険株式会社は、全国の小学生を対象に行った「第32回大人になったらなりたいもの」によれば、男子の大人になったらなりたいもの第1位は「会社員」、女子の第一位は「パティシエ」となった。 同調査は、1989年に第1回調査が行われ2020年12月調査で32回目を数える。 これまでの調査結果と同様に、特に男子の上位にあげられる「大人になったらなりたいもの」は僅差であった。 第1位は会社員で8.8%、2位がYouTuber/動画投稿者8.4%、3位がサッカー選手7.6%、4位がゲーム制作7.2%、5位が野球選手6.4%、6位が鉄道の運転士、7位が警察官4.5%、9位が料理人/シェフ3.4%、10位が同率でITエンジニア/プログラマーと教師/教員2.9%となり、1位から10位までが数ポイントの僅差で続いている。 女子については、第1位のパティシエが14.1%で多くの回答を集めているが、2位以下は男子と同様に僅差で「なりたいもの」が続いている(2位教師/教員 7.1%、3位幼稚園の先生/保育士6.0%、4位会社員5.8%、5位漫画家4.5%、6位料理人/シェフ4.3%、6位看護師4.3%、8位芸能人/アイドル3.8%、9位公務員 3.4%、9位医師3.4%)。 「大人になったらなりたいもの」の調査項目や収集方法に変更が加えられているため、一概に現在調査との比較は難しいものの、前回の第31回調査では、男子の「なりたいもの」第1位はサッカー選手で9.3%、2位は野球選手9.1%、3位が警察官・刑事5.8%であった。第32回調査で第1位となった会社員はランク外だった。 女子の前回調査の第1位は食べ物屋さんで15.9%、2位は保育園・幼稚園の先生9.1%、3位は看護師6.6%となっている。 さらに「大人になったらなりたいもの」1989年の第1回調査では、男子の「なりたいもの」の第1位は野球選手で15.1%、2位は警察官・刑事で7.0%、3位はおもちゃ屋さんで5.0%と、小学生男子の「なりたいもの」は2位と8.1ポイントの差をつけて野球選手だった。 女子の「なりたいもの」第1位は保育園・幼稚園の先生で12.0%、2位はお菓子屋さんで8.5%、3位が学校の先生で8.1%であった。 この調査結果を見ると、小学生が「大人になったらなりたいもの」は、自分が「知っている」仕事や職業であることが分かる。 年代によって順位の変動はあれど、男子女子ともに「知っている」ことが「大人になったらなりたいもの」の原点になっていると思われる。 「大人になったらなりたいもの」が自身が「知っている」範囲内で選択されていることが正しいとして、大学生が自己分析で問われる「やりたいこと」の選択行動と違いはあるのだろうか。 もし小学生の「大人になったらなりたいもの」の選択と、大学生の「やりたいこと」の選択の原点が共通して、自身が「知っている」かどうかにあるとすれば、「やりたいこと」の選択肢を広げるために、「知っている」範囲を広げることが求められるのではないだろうか。 1990年代後半から盛んに言われるようになった「キャリア教育」によって、インターンシップ等の手法により「知っている」ことの範囲を広げる施策は行われている。しかしながら、就職活動をスタートさせる20代前半までに広げられる職業に関する知識、経験には限りがある。 厳格な意味で職業、仕事についてリアリティを持って「知っている」を大きく広げるためには、自身が実際に職業に就き、働き、働きながら得られる知識、情報が必要となるだろう。 大切なことは、小学生に限らず大学生においても「知っている」範囲で選択した「やりたいこと」が、実際に自身で働くことを通じて得た知識、経験を基に「やりたいこと」を再定義し直した時、その「やりたいこと」を実現できる「力」を蓄えているかだと思う。 大学時代までに得た知識、経験で一旦は定めた「やりたいこと」であっても、「知っている」ことが広がることによって、「やりたいこと」が変わる可能性は大きくある。逆に、就職活動を迎えてもなお「やりたいこと」が定まっていなくとも、実際に働き出し「知っている」ことが広がり、「やりたいこと」が定まる可能性もまた大きくある。 「やりたいこと」が定まった時に、動き出せる「力」を如何に日頃から蓄えるかが、主体的なキャリア形成、豊かな人生には必要だと思う。 【引用・参考文献】 ・「第32回『大人になったらなりたいもの』調査結果」第一生命保険株式会社(2021) ・「第31回『大人になったらなりたいもの』調査結果」第一生命保険株式会社(2020) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

就職後「やりたいこと」が変わった時に実現できるか…。人生を選択できる学びを。

一般社団法人企業活力研究所が行った調査によれば「今の会社で定年まで勤め上げたいと思わない」と回答した34歳以下の従業員は59%に及ぶ。 新卒者就活生が自己分析を基に「やりたいこと」を定め、望む業界、職種、会社に向けて「志望動機」を構築し、数段階の選考プロセスを経て、社会人の第1歩を歩み出す就職先を確定させていく。 2015年3月卒求人倍率1.61倍から続く求職者側(新卒者側)の「売り手市場」は、新卒者の半数以上が1社から内定を得た後も就職活動を継続し、実に62.5%の新卒者が複数社から内定を獲得する状況を生み出した。1社から内定を得た後も就職活動を継続することは、より望む働き方、生き方を探求する志向の表れともいえよう。より自己の「やりたいこと」、望む働き方、生き方を探求する姿勢は、新卒就活生の必須の準備ツールのーつに組み込まれて久しい「自己分析」の副産物とも考えられる。大学生がこれまでの人生と向き合い、これからの生き方を模索する「自己分析」は、就職活動が始まる前までに、仮であっても一定の方向性、「答え」を出すことが求められる故に、移ろい易い、安定性を欠く「答え」でもある。加えて、企業が新卒就活生に開示する情報も、事業運営上不利になるような情報を出すことは難しく、限定された情報提供とならざるを得ず、新卒就活生にとっては「やりたいこと」が内定先企業で叶えられるかの確証が揺らぐこともありうる。 求職者側の「売り手市場」に加え、「自己分析」の副次的効果により、6割を超える新卒者が複数企業から内定を得る状況を作り出したと考えられる。 複数企業から内定を得て、熟慮の上4月から社会人をスタートさせる1社を選択しても尚、34歳以下の59%が「今の会社で定年まで勤め上げたいとは思わない」と答える。 自身の「やりたいこと」を探求することを就職活動のスタンダードと見なされ始めた頃から、転職を伴いながら企業横断的に「やりたいこと」を追求するキャリア志向が培われたと見ることもできる。 自身が望む働き方、生き方を探求することは、主体的なキャリア形成とも言えるため、推奨されるべき思考と思う。 さて、ここで新卒者の採用基準の中で、大学での成績を重視する企業が増えていることに注目したい。 大学での成績を改めて重視し始めた背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)、働き方改革、カーボンニュートラル社会実現など、経営そのものを転換する程の大きな変革を企業は求められており、その変革を成し遂げるためには、現在の事業と事業を取り巻く様々な要因とを俯瞰し、変革の設計図を描くことができる、基礎学力が高い人材を求める傾向が強まっていることが一因としてあげられる。 様々な事業環境変化に対応できる人材は、普遍的な基礎学力を備えた人材と目されることが多い。 新卒就活生を経て、社会人となった後の「やりたいこと」についても、「やりたいこと」を実現するためには、普遍的な基礎学力が求められるのではないだろうか。個人が思う「やりたいこと」は、既に誰かが行っていることではなく、新たに自らが創り出すことが多いのではないか。新たに仕事として生み出すためには、商品・サービスとして届けるまでの事業設計図を描くことが求められ、その設計図を描くには、やはり経験や勘だけではなく、論理的な思考が求められると思う。論理的思考を養うには、学びの時間が必要となる。 リクルートワークス研究所の調べによると、過去1年間に自分の意志で仕事にかかわる知識や技術の向上のための取組み( 本を読む、詳しい人に話を聞く、自分で勉強する、講義を受講するなど)、つまり自己学習を行ったかを尋ねたところ、社会人の33.1%が自己学習を行ったと回答した。この調査では、社会人の7割弱が過去1年間にわたって、自分の意志で自己学習を行っていないことが分かる。 世界的に見て日本が「働き過ぎ」とされていた時代から、働き方改革が進み、2000年の年間総実労働時間数1,859であったものが、2019年は1,733時間と年間労働時間が100時間以上削減されている。このことは、長時間労働だから自己学習ができない、という「できない理由」が全面的には受け入れ難くなっていることを示している。 リクルートワークス研究所の調査結果においても、労働時間が削減されても、自己学習を行う割合は有意に増加しなかったことが明らかにされている。 以前より短い労働時間であったとしても、その時間を学びの時間には使う傾向は確認されていない。 新卒就活生時代から自己と向き合い続け「やりたいこと」を探求し続ける姿勢は、社会人になっても変わらず見られる傾向として定着したと考えられる。 但し、「やりたいこと」を実現するためには、雇用された会社での職務経験のみでは不十分ではないだろうか。 働き方改革が進められる中で、総労働時間の削減のため、企業は従業員へのOJT及びOFF-JTの教育訓練時間を削減させている。このことは、以前よりも従業員の職業能力の伸長が自己学習に委ねる傾向が強まっていることを暗示している。 しかしながら、現実としては社会人の7割弱が自主的に学ぶことをしていない。 「やりたいこと」を探求する志向は主体的なキャリア形成にとって望ましい。大切なことは、それを実現する職業能力がいかに主体的に養うか、だと思う。 「やりたいこと」を探求する志向とともに、主体的に学ぶ志向の定着にも期待したい。 【引用・参考文献】 ・「就職プロセス調査(2022年卒)『2021年10月1日時点 内定状況』」就職みらい研究所(2021) ・「経営革新と『稼ぐ力』の向上に向けた仕事とキャリア管理に関する調査研究」一般社団法人企業活力研究所(2018) ・「毎月勤労統計調査 令和2年度分結果確報」厚生労働省(2020年) ・「どうすれば人は学ぶのか—『社会人の学び』を解析する—」リクルートワークス研究所(2018年) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

自己分析で辿り着いた「やりたいこと」は実際どのように扱われるのか

大学新卒者の採用・就職活動の開始時期は、就職協定の改定の歴史と共に変更され続けてきた。現在の3月1日広報活動開始、6月1日採用選考活動開始、10月1日以降正式な内定とする、採用・就職活動スケジュールは、2017年卒からである。約10年前の2012卒の採用・就職活動のスケジュールは、現行よりも5カ月早く(大学3年の)10月1日広報活動が開始され、採用選考活動開始も4月1日からとされていた。 採用・就職活動の時期が大学3年次の10月1日に開始されることにより、就職活動の「早期化と長期化」の問題が指摘され、2013年卒からは12月1日に広報活動開始が「後ろ倒し」された。2016年卒からは現在と同様の3月1日広報活動開始にさらに「後ろ倒し」されている。 近年では最も早く採用・就職活動が開始されていた2012卒までであれば、10月1日に広報活動がスタートしていたこともあり、9月中旬といえば、学生も企業の採用担当者も間もなく開始される採用・就職活動に向けて準備を整えていた時期といえる。 後に「就職氷河期」と称されるようなった1990年後半から2000年前半までの厳しい新卒者労働市場の真っただ中においても、新卒者にとって初職を探す就職活動において「自己分析」は浸透していた。 「自己分析」の中でも「やりたいこと」探しは、現在の新卒者にとっても重要な就活プロセスとして定着している。そして、この就活プロセスが新卒就活生を困惑させる大きな要因ともなっている。 では、10年前であれば10月を前にして、そろそろ新卒就活生が取り組み始める「自己分析」と、分析項目の一つである「やりたいこと」は、実際に就職後にどのような意味を持ってくるのだろうか。 株式会社ディスコが2021年3月に発表した「入社1年目社員のキャリア満足度調査」によれば、新卒者の配属先の決定時期は61.1%が「入社後」となっており、一方、「内定承諾までに」配属先が決まっている企業が10.4%、「内定承諾後、入社前まで」が26.5%であり、新卒者の半数以上が配属先は入社後に決定していることが分かる。 このことは、日本企業における新卒者採用の位置づけが未だ長期勤続、ジョブローテーションを前提とした総合職としてキャリア形成させることに基づいていると言えよう。採用・就職活動のスケジュール通り10月1日の内定時には、入社後の職務と直結する配属先は確約せず、4月1日の入社後に、会社の人事戦略に基づいて、配属先を「言い渡される」ことが多くの企業で一般的に行われている慣例といえる。 実際の新卒者の配属先決定時期は約6割で「入社後」ではあるが、配属される主体である新卒者に「望ましい配属先決定時期」を尋ねたところ、「内定承諾前」26.5%、「内定承諾後、入社前までに」25.5%と半数を超える新卒者が、入社前までに、入社後の職務・仕事に直結する配属先を決定していることが望ましいと考えている。 このことは、「自己分析」に伴う、「やりたいこと」「やりたい仕事」を明確化させながら就職活動を進める現在の就活プロセスと無関係ではないだろう。 新卒者の就職活動において一般化されて久しい「自己分析」と、採用する側の人事戦略の間には、選考プロセスにおいても入社後に「言い渡される」職務においても、ギャップを生じさせる罠が潜んでいるのではないか。 新卒者が就活時に深く考えた「やりたいこと」と、入社後の配属先=職務とは、必ずしも直結しない企業が存在するのではないか。 さらにHR総研の調査によれば、従業員のキャリア形成に大きな影響を与える異動(ジョブローテーション)について、「本人の状況・意向は確認せず、(異動)命令には原則として拒否権は無い」企業が16%、「本人の状況・意向は確認するが、原則として(異動の)拒否権は無い」企業が49%となっている。 6割を超える企業で、職務に直結する異動命令は、会社の人事戦略を反映したものとなっている。 新卒者として就職活動を行う際に、一般化された「自己分析」手法を用いて、自身の長期的なキャリアプランを深く検討した上で、志望する企業を絞り込み、4月に入社する。 調査結果から見る日本企業の実際は、変化し続けてはいるものの、現在も多くの企業で会社主導による従業員のキャリア形成が行われているように映る。 自ら望むキャリアプランを描いた新卒者が、実際にその望む「やりたいこと」を叶えるためには、新卒者自身も、そして会社も何らかの変革が求められるのかもしれない。 【引用・参考文献】 ・「入社1年目社員のキャリア満足度調査」株式会社ディスコ(2021) ・「異動、転勤に関する実態調査」ProFuture株式会社/HR総研(2021) ・「就職・採用活動に関する要請」内閣官房(2021) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

「やりたいこと」は社会を揺るがす程の衝撃によって明確化される可能性も

2011年3月11日、大地震の発生に引き続いて、非常に広範囲に及ぶ津波の襲来、原子力発電所の事故、大規模停電、断水、社会インフラの断絶…、東日本大震災は多くの国民に衝撃を与えた。 未曽有の災害は、人々の「生きること」への考え方をも変えてしまう程のインパクトがあった。 2011年9月~10月に掛けて社団法人全国高等学校PTA連合会ならびに株式会社リクルートが行った「高校生と保護者の進路に関する意識調査」では、高校生の東日本大震災の発生以前と発生以後で、進路や将来の考え方に変化が見られるかについて明らかにしている。 東日本大震災の発生以前、調査対象の高校生の中で進路や将来の考え方で最も多かった回答は「資格を取得したり、手に職をつけたい」で75%、次いで「社会に役立つ知識・技術を身につけたい」69%、「人の役に立つ仕事に就きたい」68%、「毎日を大切に生きていきたい」68%であった。 そして、東日本大震災の発生以後は、「毎日を大切に生きいきたい」が84%で最も多い回答となった。「やりたいこと」≒「職業観」についても、「人の役に立つ仕事に就きたい」が74%と、発生以前と比べて6ポイントの増加となった。「社会に役立つ知識・技術を身につけたい」も75%となり、発生以前と比べて5ポイントの増加となった。 東日本大震災という大災害を経験した高校生の中で、就職する際の「やりたいこと」の軸が「人の役に立つ仕事」に定めた若者は少なくないと言えよう。 社会を揺るがす程のインパクトの大きな出来事が、若者の「やりたいこと」の明確化に寄与することが示唆される。 新卒者の就職活動において「やりたいこと」の明確化で躓く学生は少なくない。 東日本大震災のような100年の1度の災害を不幸にも経験したことで、「人の役に立つ仕事」という「やりたいこと」の軸が明確化される場合もある。 願わくば、不幸な災害の経験ではなく、若者の主体的な行動の結果、「やりたいこと」の軸が深化されることを期待したい。 【引用・参考文献】 ・「第5回 高校生と保護者の進路に関する意識調査結果報告」社団法人全国高等学校PTA連合会・株式会社リクルート(2012) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

みな心では「コーリング」=「天職」を求めている。

新卒就活生の多くが悩む「やりたいこと」。 社会に出て、働く際に、自分は何が「やりたい」のか。これを明確に言える学生はそう多くはないのではないか。 新卒就活生が語る「やりたいこと」の中には、仕事そのものではなく、会社の事業内容が含まれていることもある。 例えば、「私が『やりたいことは』エンターテイメントコンテンツの作成に携わることです」、といった新卒就活生の「やりたいこと」の言説には、成し遂げたい仕事そのものへの言及がなされていない。 エンターテイメントコンテンツ作成会社に入社した後に、会社から割り振られた仕事を行います、といった意識が垣間見れる「やりたいこと」の言説と言える。 ただ当初はこのような「やりたいこと」が、会社の事業内容を示していたとしても、「対話」を続ける中で、エンターテイメントコンテンツ制作会社が社会に対して提供している価値を「娯楽」であると定義し、さらに「娯楽」が持つ効用を人々の人生に一時の潤いを与えること、と定めた後に「やりたいこと」を再度言葉にしたところ、「『やりたいこと』はエンターテイメントコンテンツを世界の多くの人々に楽しんでもらい、幸せな時間を増やすため、作品を多くの人に届ける広報の仕事を行うことです」と、仕事そのものが持つ価値にフォーカスし始めることも多い。 新卒就活生の「やりたいこと」、深めていった先には、シンプルに「人に楽しんでもらいたい」とか「人の役に立ちたい」といった、意義ある仕事に携わることを望んでいることに気がつかされる。 アメリカの社会学者ロバート・N・ベラーは著書「心の習慣」において、「仕事」の概念を3つの類型で説明している。 ①「ジョブ(職)」 仕事とは金を稼いで生活を立てるための手段。 ②「キャリア(経歴)」 仕事とは職務上の功績や昇進によって前進していく生涯の経過を示すものとなる。 ③「コーリング(召命・天職)」 仕事とはある人の活動と性格に具体的理想を与えるものであり、このとき仕事はその人の生活の道徳的意味から切り離せないものとなる。 新卒就活生も、まずイメージするのは、仕事とは金を稼いで生活を立てるための手段であるジョブ(職)、自己分析を行うことで、仕事とは職務上の功績や昇進によって前進していく生涯の経過を示すものとなるキャリア(経歴)を明らかにしていく。 キャリア(経歴)の先にある、仕事とはある人の活動と性格に具体的理想を与えるものであり、このとき仕事はその人の生活の道徳的意味から切り離せないものとなるコーリング(召命・天職)を、社会に出る前の新卒者が明確することは非常に困難な過程と言える。 みな社会に出て自分にとっても、他社にとっても意義ある仕事を望んでいる。 ただ意義ある仕事とは何で、どうすれば辿り着けるかを、一人で解き明かしていくことは難しい。 ここに他者(カウンセラー)との「対話」を通じた深化が求められると言える。 【引用・参考文献】 ・「心の習慣」ロバート・N・ベラー(1991年) ―新卒就活生のためのオンライン就職相談 チャット不安悩み相談

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